筒井康隆が60歳で唱えた「常識を疑う」ことの本質
2025年09月18日 公開
数多くの傑作を生み出してきた小説家・筒井康隆。60歳で著した一冊の中で、彼は「作家に必要な常識を疑うまなざし」について言及しています。
作家・山口路子さんは、著書『逃避の名言集』で筒井康隆の言葉を引用し、自らの人生をどう生きるかというテーマに、思索を巡らします。
※本稿は、山口路子著『逃避の名言集』(大和書房)より、内容を一部抜粋・編集したものです
常識を疑わなくなったら人間おしまいなのです
常識的に悪いとされていることは本当に悪いことなのかどうか。いわゆる「いいこと」とされていることは本当にいいことなのかどうか。もしかするとその悪いことは非常にいいことかもしれないじゃないか。
誤解を恐れずに言えば、人殺しも含めてです。
――筒井康隆『断筆宣言への軌跡』
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奇才、筒井康隆60歳のときに出版された本です。帯には次のような言葉があります。「『清く、正しく、美しく』の世論を糺す くたばれ良識!」差別表現への糾弾がますます過激になる社会風潮に「断筆」という形で抗議しました。「人殺しも含めて」という言葉には反発する人が多いかもしれませんから念のため付け加えておくと、この文章に続いて「そこまで原理的に考えるのが我々作家だと私は思っています」がきます。つまり、作家のあるべき姿について言及しているのです。
常識を疑う
「自分の人生を生きる」ことを意識して生きたいならやはり、常識というものに疑いをいだかなくなったら、おしまいなのでしょう。
善と悪というものを他の人たちの価値判断で受け入れない。疑ってみる。それから自分なりの意見をもつ。
それがとても大切なことのように思います。
それにしてもこの本を読むと、筒井康隆の孤軍奮闘ぶりが、強く伝わってきます。
自分を「良識」ある人間と思いこんでいる人々にうんざりし、それでもあきらめず憤っている様子は感動的です。