「リトリート」って何? 疲れが抜ける休み方の実践法
2025年09月30日 公開 2025年10月01日 更新
仕事に家庭に、人から求められる「役割」をこなすうちに、気づけば心も体もくたびれていませんか。責任感の強い人ほど、自分を後回しにしがちです。毎日忙しくて疲れを感じていたら、「リトリート」という休み方を取り入れてみてください。
ネイチャーセラピストの豊島大輝さんは、自然とつながることで本来の自分を取り戻し、心身をリフレッシュできると説きます。旅に出るのが難しくても、日常に取り入れられる"プチ・リトリート"ならすぐに始められます。
※本稿は、『PHPスペシャル』2025年10月号より内容を抜粋・編集したものです。
役割を果たすことに疲れていませんか?
私たちは生きていく中で、いくつもの「役割」を持っています。たとえば、職場では会社員として、家庭では母として、親から見れば娘として......。こうした社会的な役割は、他者から期待される姿であり、とくに責任感が強く真面目な人ほど、それらの役割を懸命に果たそうとするものです。
しかし、「求められる自分」や「期待される自分」に応え続けていると、次第に心や体が疲れてきます。ストレスや不調が生じることもあるでしょう。
本来の自分を取り戻して心身を整えるには、そうした社会的な役割からいったん距離を置くことが大切です。とはいえ、日常生活を送っている限り、それらの役割から完全に離れるのは簡単ではありません。だからこそ、「リトリート」をして休息を取ることが必要なのです。
自然とつながって本来の自分を取り戻す
「リトリート」とは、「転地療法」や「転地療養」とも訳される言葉で、普段いる場所から離れて心と体をリフレッシュすることを意味します。
リトリートでは、自然と自分とのつながりが重視されます。なぜなら、自然に触れることで、私たちは「役割の自分」ではなく、「自然の一部としての自分」に戻ることができるからです。人間は本来、自然の一部として世界に存在しています。自然の中に身を置くことは、自分らしさを取り戻すための大切なプロセスです。
しかし、日々忙しくしていると、自然豊かな場所へ出かけてゆっくり過ごすのは難しいかもしれません。そこで、日常生活の中で手軽に取り入れられる「プチ・リトリート」で自然とつながり、自分を見つめ直す方法をご紹介します。
1分でできる“プチ・リトリート術”
●空を見上げる
都会でも見ることができる空は、一番身近な自然と言えます。空を見上げることは、最も手軽なプチ・リトリート術です。
今日は、どんな空模様でしょうか。雲一つない空もあれば、アート作品のような雲が浮かぶ空、分厚い雲に覆われ雨が降る空、ものすごいスピードで雲が動く空もあります。一瞬として同じ空はありません。今この時にしかない空を、ただ見上げてみてください。
●水の流れるルートを想像する
降ってきた雨がどこに流れていくのか、水がたどる道程を想像してみましょう。
屋根から流れ落ちる水や、道端を流れる水は近くの排水溝に集まります。そこから川に流れ込み、最終的に海にたどり着くまで、水の流れるルートをイメージしてみてください。自治体が発行するハザードマップを見ながら探ると、イメージがさらに具体的になります。
●車窓から地形を観察する
電車に乗ったら、窓の外を眺めてみましょう。外にはどんな景色が広がっているでしょうか。
山が見えたら、その山の名前を地図で調べてみてください。河川に近づいたら、河川標識の看板を探して名前を確認してみましょう。橋に電車が差しかかったときに、変化する走行音に耳を澄ませるのもいいですね。車窓から外を眺めてみると、いろいろな発見があります。
●街路樹にタッチ
街中の自然と言えば、街路樹です。眺めるだけでもリフレッシュ効果がありますが、触れるとなおよし。幹や枝にそっと触れて、街路樹の生命力を感じてみましょう。
いつも通るルートに街路樹があれば、剪定されたり、新芽が伸びたり、花が咲いたりする変化を観察して、生命の循環を味わうのもおすすめです。
●グラウンディングする
地面に足をつけることを「グラウンディング」と言います。裸足になって大地を歩く「アーシング」という有名な手法がありますが、靴を履いていても屋内にいてもできるのがグラウンディングです。
まずは、椅子に座って両足を肩幅程度に開きます。心を落ち着けて、自分の足が大地と深くつながっているような意識を持ってみましょう。すると心が穏やかになり、地球と一体化したような気持ちになります。
●周囲の音を聴く
周りから聞こえてくる音に、耳を澄ましてみましょう。たとえば電車の「ガタンゴトン」という走行音は、「1/fゆらぎ」というリラックス効果があるとされています。
風に吹かれた木々のざわめき、鳥の鳴き声など、街にもいろいろな音があふれています。聞こえてくる音に耳を澄ましていると、心が落ち着いてくるはず。自然音が収録された音源を、BGMとして聴くのもいいでしょう。
●姿勢をチェックする
自分がどんな姿勢をしているか、チェックしてみましょう。鏡の前に立って意識的に見ることも必要ですが、ショーウィンドウに映る姿など、ふとしたときの自分の姿を確認することも重要です。
もし猫背や反り腰になっていたら、鏡を見ながら1分ほどかけて丁寧に姿勢を整えることを習慣にしてみましょう。姿勢をよくすると呼吸が整い、体にエネルギーが行きわたって、エネルギッシュに過ごせるようになります。
●不要なモノを捨てる
自分の部屋を見渡し、不要なモノがないか確認してください。不要なモノを捨てずに置いている部屋は、濁って淀んでいる、どぶ川のようなものです。
部屋の中が淀んでいると、心まで淀んでしまいます。まずは、なんでもいいので目の前にある不要なモノを一つ捨ててみてください。自然は循環するもの。モノも循環させて、捨てたあとのスッキリした気持ちを味わってみましょう。
●のんびりした景色を眺める
テレビやYouTubeなどで刺激の強い映像や攻撃的な言論を見ていると、自分の気も立ってきます。心を穏やかにしたいときは、そういったコンテンツから離れて、平和な風景を眺めてください。
公園を散歩している犬や、河川敷でくつろいでいる人など、穏やかな景色をぼんやりと眺めるうちにリラックスできるでしょう。
●キャンドルをともす
焚き火など、炎を眺めると大きな癒やし効果を得られます。そこで、電気を消してキャンドルに火をともし、ゆったりとした時間を過ごしましょう。
キャンドルの炎をじっと見つめていると、だんだん気分が落ち着いてくるはずです。
●一番星を見つける
夕方に空を見上げてみましょう。晴れていて星が見えそうなら、今日の一番星を探してください。一番星とは、その日の夕暮れに初めて見える星のことです。金星であることが多いですが、木星や土星の場合もあります。
日が沈んだら、夜空の星を眺めましょう。とくに明るい星である一等星は全部で21個あり、都会でも見ることができます。曇っていて星が見えない日でも、雲の向こうで輝いている星に、思いを馳せてみてください。
自然とつながる1日がかりの“本格リトリート”
●森の中を散策する
自然豊かな場所で、アクティビティーを楽しみましょう。栗拾いやりんご狩りなどの体験に参加するのもいいですが、登山道やトレッキングコースを散策するだけでもOK。
森の香りを嗅いだり、川のせせらぎを聴いたり、滝の水しぶきを感じたりするなど、その場にある自然を五感で味わってみましょう。
●地元の人と交流する
出かけた先に暮らす地元の人たちと話してみましょう。その土地とのつながりを感じられるとともに、普段の自分とは違う暮らしや価値観を知ることができるので、自分を客観視することにつながります。
宿泊する場合は、ゲストハウスや古民家、民宿など、人と交流しやすい宿を選ぶのもおすすめです。
●「しない」時間を大事にする
旅行を計画すると、あれこれと予定をつめ込んでしまいませんか? リトリートで大切なのは、「余白」です。何かを「する」のではなく、「しない」という時間を持つことで、自分自身を見つめられるからです。
旅行の目的がリトリートなら、予定をつめ込みすぎず、心静かに過ごす時間を大切にしましょう。
心のふたを外し、空を眺めよう
箱の中に入っている自分をイメージしてみてください。その箱は、自分に与えられた社会的役割を表しています。窮屈すぎる箱でなければ、そんなに不快感なく過ごせるかもしれませんが、ずっと箱の中にいると、だんだん疲れてくるでしょう。
日常から完全に離れる本格リトリートは、この箱から「外に出る」というイメージです。窮屈さや不自由さから解放され、のびのびと過ごすことができます。
しかし、人は社会的な役割を完全に手放すことはできません。箱の外だけでずっと過ごすことは難しいのです。だからこそ、プチ・リトリートが重要になります。プチ・リトリートは、箱の「ふたを外す」というイメージです。完全に箱の外に出るわけではありませんが、ふたが開けば見晴らしがよくなり、解放感を味わうことができます。ふたを外すだけなら箱の中にいてもできるように、プチ・リトリートは日常の中で、どこにいても取り入れることができます。
じつは疲労には三段階あり、早めにリセットすることが重要です。一段階目は「肉体的疲労」で、これは体を休ませることで回復できます。二段階目は「心の疲れ」です。ただ体を休ませるだけでは回復が難しく、精神的なリラックスが望まれます。そして最後、心の疲れが回復しないまま箱の中でずっと過ごしていると、三段階目である「人生の疲れ」にまで達してしまうのです。
そうならないように、プチ・リトリートや本格的なリトリートをうまく取り入れて、心をしっかりと休ませましょう。
【豊島大輝(とよしま・たいき)】
健康運動指導士、ホリスティックサポート代表。自然学校の立ち上げや県立公園所長を経て、亀山温泉ホテルにて「亀山温泉リトリート」をオープン。企業や学校、個人への研修を行なっている。著書に『しつこい疲れがみるみるとれる! リトリート休養術』(すばる舎)がある。