コメの流通が安定しないのはなぜ? カギを握る「契約栽培」の現状
2025年12月01日 公開
農家は儲からず、高齢化していて後継者がいない。耕作放棄地の面積は富山県と同じくらい広い。このままでは日本は食料危機に陥る......。このような警告を報道やSNSでよく見かけます。
では実際のところ、農業の現場は今どうなっているのでしょうか? 本稿では、農業ビジネスに詳しいジャーナリストの山口亮子さんの書籍『農業ビジネス』より、契約栽培の現状とコメの流通について解説します。
※本稿は、山口亮子著『農業ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
経営の安定に欠かせない契約栽培の取り組み
安定した経営を望む農家と、安定して原料を仕入れたい実需の間で契約栽培が増えています。JAや卸売市場に出荷すると、その時々の相場に振り回されかねないからです。
農家の農産物の出荷先のうち、最も売上が高い出荷先はJAです。しかし、売上高が大きい農家ほど、JA以外の出荷先に販路を分散しています。ロット(取り扱いの最小単位)が大きくなることで、有利販売やリスク分散の面から、食品製造業や外食産業との直接の取引が増えることがわかります。
そのJAにしても、契約栽培の拡大を掲げています。
家族経営であれば、人件費をどんぶり勘定で済ますこともできるでしょう。ですが、規模拡大が進む中、雇用を伴う経営が増えています。相場によって利益が大して出なかったり、原価割れしたりすれば、大変な打撃を受けます。経営者としては、事前にどの程度の売上が立つか把握したうえで、原価を計算する必要があります。事前に取引量や価格などを決める契約栽培は、経営の安定に重要なのです。
契約栽培のメリットは、市場出荷に比べ規格が簡素になったり、包装の手間が省けたりすること、場合によってはそれまで規格外品として売れなかったものもお金になること。また、エンドユーザーからの反応がわかること、それがモチベーションアップにつながること―などがあります。
デメリットは、実際の生産量が必要な量を上回ったり、下回ったりしてしまうことでしょう。契約内容を履行するため、契約量より多めに作付けする農家が多いようです。間に農協といった組織を介さない直接取引の場合、代金回収のトラブルもあります。
契約栽培は、コメよりも野菜で進んでいます。宮城大学名誉教授の大泉一貫さんは次のように解説します。
「1990年代後半にさまざまな外食チェーンが、首都圏近郊の農家から必要とする農産物を直接得ようとする流れがあった。その流れに乗った農家は今でも生産を伸ばしている。地域的に他産業との垣根が低く、農業が孤立していなかったと言える」
契約栽培の中には、量だけ決めて、価格はその時の相場を見て決めるケースもあります。たとえばコメの契約栽培は、事前に価格が決まるほうが珍しいとされています。ただ、農家の経営の安定には、価格も含めて事前に決めることが理想的です。商習慣の変革に期待したいところです。
コメの円滑な流通に向けて
コメは契約栽培が遅れていた分野で、それだけにトラブルがつきものです。農水大臣の諮問機関である「食料・農業・農村政策審議会」の食糧部会が2025年1月末に開かれた際、委員で農業法人・有限会社山波農場の山波剛代表取締役社長は米価の高騰に触れ、「円滑な流通ができていない理由はどこにあるのか」と問いかけたうえで次の指摘をしました。
「事前契約というものの有効性というものがまったくないということが原因なんじゃないかと。おそらく大手の皆さん、今日ここにも集荷団体の方もおられますけれども、そういう方々がこれだけ今年生産してください、これだけ引き取りますということでご契約なさっていて作付けされていると思うんですけれども、それがなぜか出来秋になった時に、価格に大きな変動があった時に何かの意図で動くと」
背景を解説すると、契約栽培で何トン売るとあらかじめ決めていても、秋に米価が上昇すると、農家は契約を無視して高く買ってくれる別の業者に売り払う――。こうしたことがままあるのです。「秋になると、人が変わっちゃう農家がいる」とコメのバイヤー(買い付け担当者)が嘆くほどです。
「普通、民間、企業同士の契約の中で動くのであればペナルティーとか、今後そういうお取引がなくなるとか、そういうことまであるはずなんですけれども、なぜこの業界にはそういうことがないという、ちょっと、やっぱり事前契約というものの履行というところで、もう一度事務局の皆さんとも一緒に考えて、それをどうにか進めていって、需要がある生産、これをきちっと履行していく、ここのところを一緒に考えていければなというふうに考えております」
山波社長がこう話すように、コメの契約栽培を確たるものにすることが、安定供給には欠かせないのです。