「他人からなめられやすい」を解決するには? 心理学者が教える対処法
2025年10月29日 公開 2025年11月06日 更新
相手に軽んじられるような言動をとられても、「嫌われたくない」と不安になり、言い返せずに終わってしまう――そんな経験はありませんか? メンタルヘルスの専門家・舟木彩乃さんは、軽んじられやすい人こそ「アサーティブな表現」を身につけるべきだと指摘します。本稿では、書籍『あなたの職場を憂鬱にする人たち』から、その具体的な方法を紹介します。
※本稿は、舟木彩乃著『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)より内容を一部抜粋・編集したものです
感情が波立つ言動を受けたとき、どう反応する?
皆さんは、違和感を抱くような言動に遭遇したとき、相手に対してどのように反応するタイプですか?
たとえば、レストランでオーダーしたものとは違う料理が運ばれてきたとき、電車の網棚にいつ落ちてきてもおかしくないような荷物の置き方をした人がいて、実際にその荷物が自分の頭めがけて落ちてきたとき、部下から「なんで上から目線なんですか?」と言われたとき。怒りの感情に任せてもの申す人もいれば、自分の感情をグッと抑えて何事もなかったかのように振る舞う人もいて、対応法は十人十色だと思います。
このように、自分の感情が波立つような言動を受けたとき、どのように反応することが自分にとっても相手にとっても、正解に近いものだといえるでしょうか。
筆者が相談を受けたSさん(男性30代)の会社では、半年に一度、上司との評価面談(半年間の成果をベースにした評価表をもとに行われる面談)が実施されます。今回の評価面談でSさんは、上司から「別に今までと同じって感じだね」と、いつものように興味なさそうに言われました。この上司の下で働きはじめて3年、彼は上司の少し冷めたような性格は知っていましたが、今回は特に苛立ちや失望を感じたそうです。
これまでSさんは、半年ごとに設定された売上げ目標を常にクリアしてきました。しかし、それでは標準の評価から上に出られないと考え、半年前の面談では「標準以上の評価になるためにはどのようなことをしたらよいですか?」と上司に確認していました。
このとき上司は、多少面倒くさそうではありましたが、評価を高めるために達成してほしい数値を示しました。Sさんはその後の半年間、その数値を達成するために相当の努力をしてきたそうです。
その甲斐あって、今回Sさんは、上司から言われた目標数値をクリアして結果を出すことができたので、面談では実績を評価する言葉がもらえたり、人事評価がアップしたりもするだろうと期待していました。しかし、このとき上司の口から出たのが、先ほどの「別に今までと同じって感じだね」という言葉だったのです。
もし、皆さんがSさんの立場だった場合、上司に対してどのような発言(自己表現)をするでしょうか?
「自己表現」3つのタイプ
自己表現には、次の3つのタイプがあるといわれています。皆さんがしようと思った発言は、次のどのタイプに近かったでしょうか。Sさんの上司の「別に今までと同じって感じだね」に対する反応例を、タイプ別にまとめたので考えてみてください。
●攻撃的なタイプ(aggressive):自分優先の考え方。他者の気持ちや都合を尊重しない。
例:(声を荒げて)「なんなんですか、その言い方は?」
●非主張的(non-assertive):自分の感情や要求を抑え相手を優先する。
例:(消え入りそうな声で)「そうなんですね......」
●アサーティブ(assertive):相手を尊重しながらも、自分の感情や要求を適切に表現する。
例:(堂々と)「私は、半年前にご教示いただいた数値を努力して達成しました。ですので、今回の評価は"今までと同じ"ではなく上げていただけるものと思っていました。どのような点が足りず前回と同じ評価になったのか、具体的に教えていただけますか?」
いかがだったでしょうか? この3つのタイプの中で、もっとも望ましい健全なコミュニケーションは、アサーティブな表現となります。3つ目のアサーティブな表現について、「もっと上司にはっきりと怒りを示すべきだ」と思った人は普段から攻撃的な表現を、「そんなにはっきりと言えない」と感じた人は普段から非主張的な表現をしていることが、多いのかもしれません。
アサーティブな発言に、この通りでなければならないという具体的な正解はありませんが、ポイントは、相手と自分を対等に扱うことと、相手も自分も大切にするということです。他の2つの表現は、攻撃的な表現では人間関係の破壊にダイレクトにつながりやすいですし、非主張的な表現では自分が欲求不満に陥ることになるでしょう。
本当は自分はどうしたいのか・どんな感情を抱いているのか
筆者のところに相談にきたSさんは、上司の先ほどの言葉に対して非主張的な表現で対応したことを悔やんでいました。彼は、上司の言葉にネガティブな感情を抱きながら何も質問できず、「そうですか......」という声を絞り出すのが精一杯だったそうです。カウンセリングに相談にくる人は、「非主張的な表現」をしてしまう人が多い傾向があります。
特に、今回の相談のような上司・部下という関係など、力関係がはっきりしているケースでは、その傾向が顕著になります。自分の意見や感情を上司に伝えることで、"自分が不利益を被るかもしれない"とか"嫌われたらどうしよう"というような、ネガティブな結果を想像した不安に支配されてしまうケースが多いのです。
しかし、立場を気にしすぎてなにも言えないでいると、その場はなにごともなかったかのように切り抜けられても、Sさんのようにあとから大きな後悔の波が押し寄せてきて、欲求不満に陥ってしまいます。また、自分の気持ちを心の奥にしまい込んで、感情を押し殺すことに慣れてしまうと、次第に自分の気持ちがわからなくなり、いつも心に霧がかかっているような状態になることがあります。
日頃からアサーティブな表現を心がけることは、"本当は"自分はどうしたいのか・どんな感情を抱いているのか、について知ることにつながります。そうすれば、自分も相手も尊重できる言い方をするには、どのような言葉や振る舞いを選べばよいかわかってくるようになります。
アサーティブな表現が苦手であるとか、できないということは、自分の気持ちや言動が、外的な基準や準拠枠、誤った信念によってコントロールされているともいえます。
「上司から嫌われたら終わりだ」とか「自分の気持ちや要求を言ってはいけない」などという気持ちがマイルールのようにあるのであれば、自分の心の奥底にある本当の感情と表に出た言動が合致しないため、アサーティブな表現はできなくなるでしょう。
Sさんは、カウンセリングを通して、自分には「上司に嫌われたら終わりだ」という思い込みがあると気づきました。さらに、アサーティブな表現をすることは、相手が誰であっても、自分の"権利"であるという認識をSさんには持ってもらいました。
特に人事上の評価は目標となる客観的な数値がある以上、達成したかどうか確認の余地があります。Sさんは、あらためて上司に面談の希望を出しました。たとえその面談で評価が変わらなかったとしても、Sさんは上司と対等に話し、理由を聞きたいという気持ちになったそうです。
どのような人とのコミュニケーションであっても、意識してアサーティブな表現を心がけることは、自分自身を尊重し大切にすることにつながります。相手から軽んじられるような態度が多いと悩んでいる人は、日頃からアサーティブな表現をするよう意識しましょう。