仕事の悩みを引きずらない技術
2013年01月30日 公開 2022年12月07日 更新
あらゆる悩みは「4つのモード」で把握できる
人は状況に応じて心理状態がいろいろ切り替わります。たとえば、仕事に一生懸命取り組んでいるときもあれば、ハメを外して思いっきり楽しんでいるときもあります。そういうときの心理状態を表現して、「自分は今、仕事モードだ」とか「今は遊びモードになっている」と言ったりしますが、「心理モードマトリクス」では、「支配モード」「自虐モード」「絶望モード」「安定モード」という4つのモードを使って私たちの心理状態を分類します。
心理モードマトリクスは、精神分析法のひとつである「交流分析」で説明されている「基本的構え」という概念を私なりにアレンジして整理したもので、自分で自分の心理状態を確認できる心理分析表のことです。
ちなみに、「基本的構え」とは、人が自分自身についてどう感じているか、他人や周囲に対してどう感じているかといった、人それぞれの見方や考え方のことです。
心理モードマトリクスでは、ふたつの軸を使って人の心理状態を分類します。
ひとつめの軸は、「自分」と「他者」の軸です。
ここでいう「他者」とは、「自分」以外のものすべてのことを言います。人間だけでなく、会社、仕事、規則、出来事、環境といった無形のものも含み、自分を取り巻く人、もの、こと全般を指します。
もうひとつの軸は、「肯定的姿勢」と「否定的姿勢」の軸です。
「肯定的姿勢」とは、たとえば、「自分は有能だ」「あの人は思いやりがある人だ」「いい会社だ」「ラッキーなことがあった」「未来は明るい」といったように、自分や他者のことを肯定的にとらえているときの姿勢です。
これに対して、「否定的姿勢」は、「自分は無能だ」「あの人は非情な人だ」「ダメな会社だ」「アンラッキーだった」「未来は暗い」といったように、自分や他者のことを否定的にとらえているときの姿勢となります。
これらふたつの軸を掛け合わせると、自分や他者に対してどんなとらえ方をしているのかを示す4つの心理状態ができあがります。それが、次の4つの心理モードです。
(1)自分に対して肯定的・他者に対して否定的=支配モード
(2)自分に対して否定的・他者に対して肯定的=自虐モード
(3)自分に対して否定的・他者に対して否定的=絶望モード
(4)自分に対して肯定的・他者に対して肯定的=安定モード
それに対して私は、人が生きている中で、自分自身や他者に対する肯定・否定のとらえ方が場面によって切り替わるということをどうやって表すかを考えて、その瞬間瞬間の心理状態を表すものとして、基本的構えと区別する意味で「心理モードマトリクス」と名付けました。そして、「支配モード」「自虐モード」……といったように、ひと言で表現できて、すぐにイメージしやすい日本語を当てはめてみました。
どうすれば理想の「安定モード」になれるのか?
悩んでいるときの15種類の心理パターンは、すべて心理モードマトリクスのいずれかのモードに当てはまります。心が不安定なときの感覚は、自分もしくは他者について否定的に考えていることによって生じているというわけです。
悩みを引きずらないようにするには、心を安定させて冷静になる必要があると何度も繰り返し述べていますが、それはすなわち、自虐モード、支配モード、絶望モードから抜け出し、安定モードになることを意味します。自分に対しても他者に対しても否定的な考え方を肯定的に変えて安定モードになれば、悩みを引きずらなくなるのです。
では、いったいどうすれば否定的な考え方を肯定的に変えることができるのでしょうか? どうすれば安定モードになることができるのでしょうか?
それには、なぜ私たちは自分もしくは他者を否定的に考えてしまうのかを理解することが必要です。その理由をひと言で言えば、願望に執着しているからです。
たとえば支配モードの場合は、「相手はこうあるべきだ」「こういう状況になってほしかった」といった他者に対する願望に執着しています。しかし、現実はそうなっていないため、自分の思う通りになっていない他者のことをつい否定的に考えてしまいます。
自虐モードの場合は、「自分はこうすべきだった」「自分はこうあるべきだ」といったように、自分に対する願望に執着しています。ところが、実際にはその願望通りになっておらず、だから「こんな自分はダメだ」と否定的に考えてしまうのです。
絶望モードになるときには、「自分はこうすべきだった、そして、他者はこうであってほしかった」といった願望に執着していますが、残念ながら現実はその通りにはなっていません。そのため、自分にも他者に対しても否定的になってしまい、「自分は生きる価値がなく、この世もまた生きる価値がない」と結論づけてしまうのです。
そもそも、悩まない人間は成長できない
安定モードになるためには、自分がどのような願望に執着しているのか、なぜ執着しているのかを自覚し、その願望の間違っている点や、その願望に執着していることの問題点をひとつひとつ解きほぐしていく作業が必要です。それと同時に、自分もしくは他者に対する否定的な姿勢を肯定的なものに切り替えていくことによって、自分も他者もともに肯定する安定モードになれます。
ところで、実はこの一連のプロセスは、人間の器を大きくするための取り組みであると言ってもいいと思います。
安定モードになるための、自他否定を自他肯定へと切り替える取り組みは、ワンランク上の人間性を手に入れるためには絶好のトレーニングとなります。
そう考えると、悩むこと自体は、それほど悪いことではないと考えられるかもしれません。むしろ、悩む体験がないと人は成長できないのです。
悩むのは願望への執着があるからですが、願望に執着することは今の自分を築き上げてきた原動力であり、夢や希望を実現するために自分を突き動かすエネルギーでもあります。
ただし、悩みを引きずっている状態のままでは、常に苦しみがつきまといながらの成長になってしまいます。
理想は、成長のエネルギーは維持しつつ、安定モードになって前進することです。
その理想的な心の状態を手に入れると、どんなときでも自分本来の力を発揮できるようになります。
笹氣健治
(ささき・けんじ)
心理カウンセラー
1967年仙台市生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。NTTで法人営業と広告企画を経験した後、仙台に戻ってスポーツクラブ「グラン・スポール」の経営に携わる。業績アップによって黒字化に成功したが、企業経営者として人間心理を理解する必要性を痛感し、堀之内高久氏(元横浜国立大学保健管理センター准教授)に師事し、心理療法・心理学の研究と実践に取り組み始める。現在は、サラリーマンと企業経営を経験した数少ない心理カウンセラーとして、頑張っている人が抱える悩みの解消をテーマに、執筆、講演、セミナー、個別カウンセリングなどを行っている。
主な著書に『「クヨクヨしない」技術』(PHP文庫)『なぜあなたはその仕事を先送りしてしまうのか?』(だいわ文庫)『なぜ月曜の朝はつらいのか?』(東京書籍)『仕事にくたくたになったら読む本』(中経の文庫)など。
公式HP「一歩ナビ」http://www.lpo.jp/
株式会社グラン・スポール http://www.sportsclub.co.jp/