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スペインの「おひとりさま」はなぜ孤独を感じない? 日本との決定的な違い

Rita(旅暮らしエッセイスト)

2025年12月16日 公開

「賑やか」「情熱」「ロマンチック」そんなイメージが強いスペイン。
本稿の著者Ritaさんは、53歳の時に急に思い立って、学生として単身でスペインに渡り、3年間を過ごされてきたなかで、そのイメージは大きく変わったと言います。

本稿では、スペインで「ひとりでいること」について、Ritaさんに語っていただきます。

※本稿は、Rita著『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

ひとりでいることは、「誰か」とつながる余白 

スペインでは、飲食店で隣の人とふとした会話が始まることも多く、ひとりでいても、誰かがすっと近づいてくる空気があります。
話しかけてもいいし、話しかけなくてもいい。
その"ちょうどいい距離感"が、どこかホッとした気持ちになるのです。

誰も"ひとりであること"に言い訳をしていないし、誰もそれを特別視せず、その姿は、成熟した自由と静かな誇りに満ちています。

そして、ひとりでいる人同士は、むしろ自然に会話が生まれ、その場を共有する雰囲気が漂っているのがスペイン風。
誰かとつながりたいから話しかける、というより、「そこにいるから声をかける」という、ごく自然な反応が息づいているのです。

それは飲食店だけではありません。たとえば、ある日の商店。缶詰コーナーで立ち止まっていた私に、見知らぬ年配の女性がにこやかに話しかけてきました。

「あなた、どれにするの? 私、迷ってるのよ......。夫はこれが好きで、でも息子は違う味が好きで、私はまた別でね。ちょっと向こうのコーナーも見てくるわ!」
と、買い物という日常の場面をそのまま会話に変えてしまう、そんなしなやかさに、思わず笑ってしまいました。

日本なら「すみません、どちらがオススメですか?」と尋ねるなんて勇気がいることですが、スペインでは会話のきっかけはもっとフランクで、もっと人間らしいのです。

また別の日には、靴売り場での出来事。
2足の靴を前にして迷っていた私に、隣にいた女性が突然、「あなたは絶対にこっちが似合うわ! 素敵な色! すごくいい!」と断言。
そして、そのまま「ちょっと私にも履かせて!」と笑いながら自分の足を差し出し、私と同じ靴を試し始めたのです。

初対面の相手と、わずか数分のうちに"共有体験"が生まれる。
そこには打算も遠慮もなく、ただ「私の話、聞いて!」という純粋な気持ちが流れているのです。

こうした瞬間に出会うたび、スペインの人々は"ひとり"を閉ざさず、むしろひとりでいるからこそ、他人との会話を自然に楽しむのだと実感します。
ひとりでいることは寂しいことではなく、誰かとの小さな接点を受け入れる余白を持っているということ。

だからこそ、街には"ひとりの人"が溶け込んでいて、そこから会話の花が咲く風景が日常的なのだと思います。

実際、カウンター席にひとりで座っていても、隣の人が「今日は暑いね」と声をかけてくれることがあります。
広場で休んで本を読んでいると、通りすがりの人が「その本、面白い?」と尋ねてくることもあります。

日本なら少し不思議に思うようなやりとりも、ここでは自然に受け止められ、笑顔で返すうちにその場が和んでいきます。
必ずしも会話が長く続かなくても、たった数秒のやりとりで十分に心があたたまるのです。

 

スペインの”ひとり”は孤独じゃない

スペインの"ひとり"は、閉ざされた孤独ではなく、"開かれたひとり"。

人と人の境界線がやわらかく、そのやわらかさが心を解きほぐしてくれます。
ひとりでいるからこそ、誰かとの出会いが際立ち、ひとつの会話が宝物のように記憶に残ります。

私はこの国で、「ひとり=孤独」ではないことを、日常の小さな場面から繰り返し教えられています。

むしろひとりでいる時間があるからこそ、他人との関わりが鮮やかに感じられ、人生に新しい色が差し込む。
そんなスペインの人たちの生き方に触れるたびに、「ひとりでいる勇気」と「人とつながるやわらかさ」は両立できるのだと気づきました。

ひとりを恐れない。
けれど、他人を遠ざけない。
スペインの街に流れるこの独特の空気は、自分の時間を大切にしながら、必要なときに自然に他人とつながれる環境です。

「自分とどう過ごすか」が人生の質を決めていく。
そんな気づきが、スペインでの暮らしの中で、自然に育まれてきたように思います。

ひとりでいる時間は、自分を深める時間。
自分としっかり向き合うことができれば、他人にもより自然に優しくなれる気がします。

誰かと一緒の時間も、ひとりで過ごす時間も、かけがえのない自分の人生の一部。
スペインの「おひとりさま」たちの姿は、そんな当たり前のことを、もう一度思い出させてくれるきっかけにもなりました。

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