個々人の能力や将来性といった要素を分析・分類するうえでも、マトリクス思考は大いに役立つ。本記事では、「新人の指導の方向性マトリクス」のポイントを、書籍『マトリクス思考 2軸で切る、視える、決める』から紹介する。
※本稿は、グロービス経営大学院, 嶋田毅著『マトリクス思考 2軸で切る、視える、決める』(東洋経済新報社)より一部抜粋・編集したものです。
新人指導の進め方を検討するためのマトリクス
かつての日本においては、新卒で入社した会社で定年まで勤めあげる終身雇用が一般的でした。そして新卒一括採用で人材を確保してから職務を割り当てる「メンバーシップ型雇用」が主流でした。その中で徐々に差がつき始め、管理職になれたりなれなかったりするといったように人材を育てていたのです。
しかし最近では日本においても転職は珍しくはなくなってきており、人材の流動性は増しています。また、ゼネラリスト的なマネジメントの職だけが成功の証ではなく、スペシャリストとしてのキャリアトラックもでき始めています。
このマトリクスは、多様化する社員のマネジメントの方向性、特に採用したての人間をどのように指導すべきかを検討する際に役に立ちます。
はじめに、採用した(あるいはしたい)人材のタイプが「スペシャリスト」(志向)か「ゼネラリスト」(志向)かを見極めます。また、即戦力の度合いも判断します。多くの大企業の新卒の総合職は「即戦力度合いの低いゼネラリスト」となるわけです。このようにして1人1人をプロットします。その上で、各人に活躍してもらうべく、指導の方向性を検討していきます。
このマトリクスはまた、会社の人材の偏りや人事制度改変のヒントももたらしてくれます。たとえば、中途採用で即戦力を獲得することを中心に人材を確保している企業であれば、ジョブ型雇用の導入に適しているため、その導入を検討することもできます。
新人の能力・育成プランで仕分け
横軸は「スペシャリスト/ゼネラリスト」、縦軸は「即戦力度合い高い/低い」としています。
右上の象限の「スペシャリスト」×「即戦力度合い高い」は、すぐに専門性を発揮してほしい人々です。期待を明確に伝え、必要なリソースを提供すべきでしょう。また、タイムリーなフィードバックも必要となります。専門性をどんどん伸ばしてもらう環境作りが大切です。
右下の象限の「スペシャリスト」×「即戦力度合い低い」の人々は、比較的時間をかけて育成します。スキルギャップの特定とそれに応じたトレーニングを提供したり、上司や先輩社員の手厚いサポートが必要になります。一方で、現在は即戦力ではなくとも急激に成長する人材もいるため、そうした人材を早期に見極め、よりチャレンジングな仕事を任せることも求められます。
左上の象限の「ゼネラリスト」×「即戦力度合い高い」の人々には、まずは会社のビジョンや戦略の方向性を正しく理解してもらうことが必要です。その上で、彼/彼女の力が最大化できる仕事を任せます。すでに能力はあるものの、やはり適宜フィードバックを行うことで、その力をさらに伸ばしてもらうことも求められます。学びの機会なども積極的に提供しましょう。
左下の象限の「ゼネラリスト」×「即戦力度合い低い」は、ポテンシャルに合わせてじっくりと育てていく姿勢が求められます。多様な機会を与え、フィードバックを行いながら育てていきます。全員が成功を収めるのは難しいですが、極力それに近づけるべく、彼/彼女が力を出せる仕事が何かを一緒に見出していくことも必要です。
活用事例と留意点
株式会社ニトリでは、「ゼネラリストなスペシャリスト」を多数育成すべく、3~5年単位で様々な職種を経験して多面的な視野を身に着ける「配転教育」を人材育成手法として採用しています。そのため、「配転教育」を実施せず、明確に職務を定義できる専門職にだけジョブ型雇用制度を適用する方法をとっています。専門職になるまでは「配転教育」を行い、社員が様々な職種を経験しながら自分でキャリアを選べる仕組みを導入しているのです。この制度は、従来の日本企業やり方の良さと欧米的なジョブ型雇用制度の良さの両方を取り入れた制度と言えます。
特に優秀なスペシャリスト人材は、職種にもよりますが、引く手あまたになることが少なくありません。せっかく育成した人材が流出してしまうのは好ましくありません。彼らに満足してもらえるように報酬制度を整えたり、会社に対する帰属意識を持ってもらえるように、ビジョンをしっかり共有することが大切です。