売上No.1のカギは“捨てる”こと 「専門店化した宿」が伸びるワケ
2026年04月20日 公開
あれもこれもできるホテル・旅館と聞くと、「宿泊者が増えそう」と思うかもしれません。ところが、「何でもできる宿です!」というプロモーションでは、なかなか売上を伸ばすことは難しいと、観光業に長年携わる合同会社Local Story代表の内藤英賢さんは語ります。
観光ビジネスをする上で、どのようなことを意識すればよいか――本稿では、マーケティングのコツを紹介していきます。
※本稿は、内藤英賢著『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
専門店化した宿が売上No.1になる時代
「あれもこれも取ろうとする」集客戦術が、もはや通用しなくなっていることは、如実に数字にも表れてきています。以下は、楽天トラベルの全国売れ筋(売上)ランキング(51室〜100室ゾーン)です(2025年夏)。
1位:アンダの森 山形天童店
2位:道後温泉 大和屋本店
3位:アンダの森 伊豆いっぺき湖
4位:水上温泉 みなかみホテルジュラク
5位:有馬温泉 有馬御苑
6位:ホテル&スパ アンダリゾート伊豆高原
7位:黒川温泉 優彩
8位:TAOYA日光霧降
9位:VIVOVIVA石垣島
10位:アラハマハイナ コンドホテル
上記の順位を見ると、あることに気付きます。
1位:アンダの森 山形天童店
3位:アンダの森 伊豆いっぺき湖
6位:ホテル&スパ アンダリゾート伊豆高原
なんと、同じ屋号のグループ施設が、全国トップ10の中に3施設もランクインしているのです。これは凄いことですよね。
では、このアンダの森グループが行っている戦略は何なのでしょうか?それは「明確にターゲットを絞っている」という点です。公式Webサイトを見ていただければ分かりますが、一発で「ファミリーターゲットだ」ということが分かります。
代表的に使われている写真はどれもこれも「子どもが楽しそうに遊んでいる写真」です。見せ方、演出、客室、食事、サービスを全てファミリーに照準を合わせることでファミリー層を集客しています。
「あれもこれもできる」は魅力にならない
ここで、ある疑問が浮かびます。「ファミリー層以外はどうしているんだ?」
答えは明白で「集客ターゲットとして捨てる」です。これが本当に日本の観光ビジネスでは苦手な手法なのです。
「ターゲティング」はマーケティング上は定石中の定石ですが、これがいざ実行するとなると、皆さんなかなか踏み出せない。「こんなにファミリーに寄せてしまうと、夫婦のお客様が......老人会のお客様が......」とマイナス面に目が行き踏み出せない。要は「捨てる」ということが「不安」なのです。
人間にはどうしても「損失回避の法則」という心理が働き、「捨てた方がいいということよりも、捨てて万が一失敗する方が嫌だ」という心理の方が勝ってしまうという性質があります。ここまで圧倒的な成功事例があってもです。
別業界ですが、飲食業界は先行してこの波に吞まれました。総合居酒屋という、言うなれば「あれもそれもターゲット」にした居酒屋が廃れ、「○○専門居酒屋」が増えていきました。街を見ても、「魚料理専門」「から揚げ専門」「焼き鳥専門」という店がいかに多いか気づくことでしょう。これは明確な消費者ニーズの変化です。
団体旅行時代は様々な人が混在するため、最大公約数的な施策が求められました。つまり「あれもこれもそれもに対応するスタイル」が良しとされたのです。しかし、個人が観光地や宿や飲食店を選ぶ時代となり、個人の趣味趣向は多様になり、そこに合ったお店とのマッチングが行われるようになりました。
ご夫婦旅行であれば、ご夫婦の雰囲気に合った宿が選ばれますし、ファミリーであれば、ファミリーに合った宿が選ばれるのです。そして、各事業者は毎日1000人など集める必要はないのです。多くても数百人かそこらの集客をすればいい訳で、そうなればターゲットを絞って、そこに向けて集客する方が合理的な訳です。
大切なのは「ターゲットの明確化」
これはサービス設計や顧客満足度を考える上でも重要なポイントになります。ファミリーであれば、ファミリー(もっというとお子様)が喜ぶ仕掛けを考えればよい訳です。「あれもこれもそれも」旅館は、全てに対応しようとするがゆえに全てが中途半端になり、誰にも刺さらないという現象が、顧客満足度においても起こります。
そして、来る客層も、それを目当てにくるのでミスマッチングが少なく、満足度が高いという訳です。「アンダの森 天童店」のクチコミをご覧いただければ分かりますが、元々は破産してしまった旅館とは思えない評価を得ていることが見て取れます。
恐らく飲食、小売り、アパレルなどの方がこの話を聞けば、「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、観光ビジネスではその波が「これから」くるのです。これを知っていると知らないとでは、ビジネスの成功確率がかなり違ってくることでしょう。
実際、新しくOPENする宿、若手がやる宿は、そのように「ターゲットを明確に絞った宿づくり」になっていると感じます。
・アドベンチャーツーリズム専門宿
・美味しい野菜を食べさせる宿
・インバウンド専門旅館
そして、軒並み人気店となっています。今後はターゲットを明確化した様々なビジネスが生まれることでしょう。
・ひとり旅専門の旅館
・50代/60代の落ち着きたいご夫婦専門の旅館
・大自然とサウナに浸るネイチャー専門ホテル
これは、宿だけに当てはまる話ではありません。観光地も同じです。いや、むしろ観光地の方が失敗事例が多いと言えるでしょう。「うちの地域は自然があり、料理もおいしくて、伝統と文化があり、人も優しい地域なので、ぜひお越しください!」というプロモーションが最悪になる訳です。
恐らく、そう聞いて皆様の頭には何ひとつ具体的な地名は浮かばなかったでしょう。ところが、「うちはうどん県です!うどん食べに来てください!」こう聞くとどうでしょうか?真っ先に「香川県」が頭に浮かんだことだと思います。
香川県だって、自然があり、料理も美味しくて、伝統と文化があり、人も優しい地域なのですが、あえて「うどん」という他県と比較して、圧倒的に差別化になる要素を全面に押し出した訳です。結果、「うどん食いたい人は香川県に行く」という、ブランドを確立しました。
繰り返しですが大事な点は「ターゲットの明確化」です。観光地も、宿泊施設も、飲食店も、お土産屋も「誰でも来てください」というPRは「どの層にも刺さらない」のです。