長野県で“サラダ軍艦”が人気No.1に? 人気ネタに表れる「寿司の地域性」
2026年03月24日 公開
マグロ、サーモン、いくら、鯛...日本人が大好きな寿司には、さまざまなネタがありますが、「寿司は地域の文化が色濃く反映される食べ物」だと、「さかなの会」主宰で株式会社さかなプロダクション代表取締役を務めるながさき一生さんはいいます。本稿では、地域ごとに異なる人気の寿司ネタや町寿司の魅力について、見ていきましょう。
※本稿は、ながさき一生著『寿司ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
地域別人気の寿司ネタ
寿司には、地域の文化が色濃く反映されやすいという特徴があります。例えば、同じ回転寿司チェーンで、同じメニューが並んでいたとしても、地域によって「よく食べられるネタ」は驚くほど違ってきます。ここでは、そんな寿司の地域性を、人気の寿司ネタから北から順に覗いていきましょう。
【1】北海道:〆鯖(しめさば)
「魚の宝庫」として知られる北海道ですが、意外にも人気ネタとして名前が挙がるのが〆鯖です。北海道といえば、鮮度抜群の「生」のイメージが強いかもしれませんが、実はサケやニシンなど、保存食文化が古くから根付いている地域でもあります。
脂の乗った鯖を、酢でしっかりと締めるという「ひと手間」を加えた味わいは、北海道の食文化には自然と馴染んできました。キリッとした酸味と鯖の旨味のバランスを好む感覚は、保存食を大切にしてきた土地柄とも重なります。
【2】長野県:サラダ軍艦
海のない県、長野で圧倒的な人気を誇るのが「サラダ軍艦」です。かつて鮮魚の入手が難しかった時代、保存性のある練り製品やマヨネーズを使った軍艦巻きは、子どもから大人まで楽しめる「ご馳走」として定着していきました。
さらに大きいのが、長野県発祥の回転寿司チェーン「かっぱ寿司」の存在です。県内に早くから店舗を展開し、サラダ軍艦を定番商品として提供してきたことが、食文化として根付く大きな要因になりました。長野県では、マグロやサーモンを抑えてサラダ軍艦が売上1位になる店舗も珍しくなく、もはや立派な「ソウル寿司」と言える存在です。
【3】石川県:かっぱ巻き
さまざまな海の幸のイメージが強い石川県ですが、実は「かっぱ巻き」の消費量が多い地域として知られています。なぜなのかは定かではありませんが、テレビの報道によると、その背景にあると言われているのが、石川県ならではの家庭環境です。
共働き世帯が多く、祖父母の家で育つ子どもたちが、庭で採れたきゅうりをおやつ代わりに食べて育つ。そんな光景が、ごく自然にある石川県では、家庭菜園できゅうりを育てている家が多いこともあり、石川県民にとってきゅうりは身近で親しみのある存在になっているとのこと。その延長線上に、かっぱ巻きの人気があると考えると腑に落ちます。
【4】愛知県:鉄火巻
「なごやめし」に代表されるように、しっかりとした味付けを好む傾向がある愛知県では、鉄火巻が人気です。愛知は三河湾を有し、海苔の生産が盛んな地域です。そのため海苔へのこだわりが強い人も多く、パリッと香ばしい海苔と赤身マグロの濃厚な旨味の組み合わせが高く評価されます。
また、通常1皿に4貫以上のる鉄火巻は、握りと比べてお得感が強いのも選ぶ理由として挙げる人が多くいるとのことです。
【5】愛媛県:オニオンサーモン
真鯛の養殖日本一を誇る愛媛県ですが、回転寿司では「オニオンサーモン」が売れているそうです。愛媛の食文化を見ていくと、実は甘めの味付けを好む傾向があります。麦味噌文化などがその代表例でしょう。それに加えて、愛媛には、薬味文化もあります。柑橘の皮や果汁、ねぎ、みょうがなど、香りや軽い辛味・酸味を添えて味を立体的に整える食べ方が根付いています。
脂の乗ったサーモンに、スライスオニオンと甘めのマヨネーズ。この組み合わせは単なる洋風アレンジではなく、「甘味と旨味」を土台にしつつ、オニオンの辛味と香りで後味を締めるという、愛媛の味覚構造に合ったものといえるでしょう。甘さを受け止めながら、薬味でキレを出す。その感覚にぴたりとはまっています。
町寿司に行こう!
以前は、どの町にも当たり前のようにお寿司屋さんがありました。日常のランチを食べたい時、お祝い事の特別なディナー、家族へのお土産、あるいは出前を頼む時など、町寿司は実にさまざまな役目を担っていました。
ところが現在では、日常食は回転寿司、お祝いの場は高級なカウンター寿司、持ち帰りはスーパーや駅ナカの寿司コーナー、出前はデリバリー寿司といった具合に役割が細分化され、分業が進んでいます。そんな中で、町のお寿司屋さん、いわゆる「町寿司」は、今どんな役割を担っているのか。町寿司が大好きな私自身、日頃から考えているテーマでもあります。
町寿司とは、高級寿司でも回転寿司でもない立ち位置で、町に根ざして営業しているお寿司屋さんのことです。家族経営や個人店が多く、何十年も同じ場所で続いている店が少なくありません。
寿司1人前ランチ1000円前後、ディナーでも3000円前後という価格帯でありながら、回転寿司のように大量に規格化された冷凍魚や養殖魚に依るのではなく、その日の仕入れに向き合い、季節の魚介を寿司として提供していただける。この存在は、子どもたちへの食育や地域の食文化を守るという意味でも、非常に重要だと私は感じています。
町寿司の魅力の一つは、地域性や経営者の個性が色濃く出る点です。例えば、私の地元である新潟県糸魚川市の人気店「地魚料理 すし活」では、地場の白身魚を中心としたネタ構成が特徴です。
糸魚川沖は地質の関係でミネラル分が多く、白身魚でも味が濃い。その魚に合わせて、味のしっかりしたコシヒカリのシャリを使っています。土地の魚と米の相性を、長年の経験で作り上げてきた町寿司らしい一軒です。
山間部にあり、熟成を効かせたネタと、しっかり酢を効かせたシャリで、独自の寿司を提供してくれる町寿司もあります。「山で寿司」という意外性がありますが、冷蔵技術が発達した現代においては、魚の扱いさえ適切であれば、場所を問わず美味しい寿司が成立します。
当然ながら都市部にも町寿司は数多く残っています。派手な演出はなくとも、丁寧な仕込みと安定した仕事で、地元の人や働く人に長く愛されているお店も少なくありません。こうしたお店では、寿司の流行よりも、日常としての寿司が大切にされています。
私が町寿司で特に好きなのは、家に帰ってきたかのようなアットホームな空気感です。大将や職人が黙々と寿司を握る中、女将さんがさりげなく声をかけてくれる。店の片隅には小さなテレビがあり、バラエティ番組の笑い声やニュースのアナウンサーの声が流れている。この昭和を思い出すようなノスタルジックな雰囲気に、いつの間にか心がほどけていきます。
物価高騰や人手不足など、町寿司を取り巻く環境は決して楽ではありません。それでも、多くの店が以前と大きく変わらない価格で寿司を提供し、地域の文化を守り続けています。その姿勢には、頭が下がる思いです。
こういった町寿司を少しでも応援しようと、私が主宰する「さかなの会」では、「machisushi_daisuki」というアカウントで町寿司のInstagramを立ち上げました。まだ、投稿数はそんなに多くありませんが、ぜひ皆さんも町寿司に足を運び、この文化を一緒に支えていきましょう。寿司の本質は、意外と身近な町寿司にこそ詰まっていると私は思っています。