揚げ寿司にフルーツ寿司まで...驚くほど自由な「世界のSUSHI」
2026年04月01日 公開
寿司といえば、どのような見た目の寿司を思い浮かべるでしょうか?恐らく多くの方は握り寿司または軍艦巻きが頭に浮かぶでしょう。ところが、あまり見かけることのない一風変わった寿司が親しまれている地域や国もあると、東京海洋大学の講師も務めるながさき一生さんは語ります。
本稿では、世界各地の「SUSHI」の楽しみ方や多種多様な寿司について見ていきましょう。
※本稿は、ながさき一生著『寿司ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
世界におけるSUSHIの現在地
寿司文化への入口としての役割を担ったロール寿司のように、寿司は日本で完成した形のまま広がったのではありません。各地の文化や価値観に合わせて、少しずつ姿を変えながら広がっていきました。
現在、世界で食べられている「SUSHI」は、一つの決まった形を持つ料理ではありません。ある国では高級料理として特別な日に楽しまれ、別の国ではスーパーやフードコートで気軽に買える日常食として親しまれています。同じ「SUSHI」という名前で呼ばれていても、その意味や価値は国や地域によって大きく異なっています。
例えば北米では、寿司はヘルシーでおしゃれな食事というイメージと結びついて広まりました。生魚に抵抗を感じる人も多い中で、アボカドや加熱した具材を使ったロール寿司が受け入れられ、寿司は身近な外国料理として日常の選択肢に加わっていきます。一方で、高級寿司店では、日本の技術や素材、職人の仕事が重視され、寿司は特別な体験として提供されています。同じ寿司でも、場面によって役割が異なっているのです。
ヨーロッパでは、寿司は味だけでなく、見た目の美しさや創造性も重視されています。色使いや盛り付けに工夫を凝らした寿司が多く見られ、現地の美意識と結びつきながら独自の広がりを見せています。寿司は、食べるものとしてだけでなく、楽しむものとして受け取られていると言えるでしょう。
また、アジアや中東の地域では、宗教や食習慣に配慮した寿司が広がっています。豚肉やアルコールを使わない寿司や、現地の香辛料や調味料を取り入れた寿司など、その土地の価値観に合わせた形が選ばれてきました。ここでも、日本の寿司をそのまま再現することよりも、受け入れやすさが大切にされてきたことが分かります。
このように見ていくと、SUSHIは世界各地で、それぞれの暮らしに合わせて形を変えながら広がってきた食文化だと言えるでしょう。日本の寿司がそのまま広がったのではなく、受け取る側の生活や考え方の中で、新しい意味を持つようになっていったのです。
大切なのは、こうした変化を「本物ではない寿司」と否定しないことです。寿司はもともと、日本の中でも時代や環境に応じて姿を変えてきました。その柔軟さがあったからこそ、寿司は世界のさまざまな場所で受け入れられ、身近な食べ物として根づいてきたのです。
現在のSUSHIは、日本の食文化であると同時に、世界各地の暮らしの中に溶け込んだ食文化でもあります。国や地域ごとに違った意味を持ちながら存在していること。それこそが、寿司の現在の姿だと言えるでしょう。
伝統的、ワールドワイド、多種多様な寿司
寿司というと、握り寿司を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし実際には、寿司は時代や地域に応じて姿を大きく変えながら受け継がれてきました。ここでは、日本各地や海外で見られる、少し変わった寿司をいくつか紹介します。
【1】返し寿司(岡山県倉敷市)
倉敷の返し寿司は、見た目だけでは寿司だと分かりません。具材を下に、酢飯を上にして箱に詰め、食べる直前にひっくり返すことで完成します。この寿司が生まれた背景には、江戸時代初期に出された倹約令の存在があります。贅沢が厳しく制限される中で、庶民は派手さを表に出さず、「隠す」工夫から生まれました。見た目は質素でも、ひっくり返した瞬間に華やかさが現れる返し寿司は、そうした時代の知恵の産物と言えるでしょう。
【2】こけら寿司(高知県、和歌山県)
寿司といえば、にぎりや巻き寿司を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、切り分けて食べる寿司として親しまれてきたのが、こけら寿司です。木の薄い板で作られた「こけら箱」に、酢飯と具材を何層にも重ねて詰めるのが特徴で、見た目の華やかさも魅力のひとつです。主に祭りや祝いの場で振る舞われ、大勢で分け合う食べ方が定着してきました。こけら寿司は、寿司が日常の食事だけでなく、人が集まる場を彩る料理として発展してきたことを示しています。
【3】酒ずし(鹿児島県)
寿司といえば酢飯を使うもの、という常識を覆すのが鹿児島の酒ずしです。酒ずしは、炊いた米に日本酒を加え、魚介や野菜とともに仕込み、蒸して仕上げる寿司で、酢の強い酸味はありません。江戸時代の南九州では酢が貴重だった一方、酒造りが盛んだったため、酢の代わりに酒を使う工夫が生まれました。主に祝い事で食べられてきた酒ずしは、寿司が土地の条件に合わせて形を変えてきた食文化であることを分かりやすく示しています。
【4】ホットロール(メキシコ)
メキシコでは、巻き寿司をパン粉をつけて揚げた「揚げ寿司」が一般的に提供されています。チーズやスパイス、フルーツを組み合わせることも多く、現地の揚げ物文化と融合した形です。寿司が冷たいという概念を覆し、日本料理としてではなく、地域の食文化の一部として受け入れられていることがよく分かります。
【5】フルーシ(欧米)
イチゴやマンゴーなどのフルーツを酢飯に乗せて巻いたりなどする創作寿司のことです。スイーツ感覚で食べられることが多く、そのヘルシーさも人気の理由です。生魚が苦手な人向けに開発されたり、リゾットのような現地の米料理から派生したりした背景があり、寿司の多様さを表していると感じられます。
【6】スシピザ・スシタコス(北米・中南米)
シャリを土台にピザのように具材を乗せたスシピザや、トルティーヤに寿司ネタを乗せるスシタコスも登場しています。これらは寿司の要素を残しながら、既存のローカルフードに組み込まれた例です。寿司が「型」に囚われることなく、多様化していくことを表しています。
これらの寿司に共通しているのは、「型」を守ることよりも、その土地で受け入れられる形へと変化してきた点です。寿司は固定された料理ではなく、環境や文化に応じて姿を変える柔軟な食文化なのです。この多様性こそが、寿司が世界中で生き続けてきた理由なのかもしれません。