ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『一・五代目 孫正義』(井上篤夫著、実業之日本社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
人はなぜ経営を志すのか
この本にはソフトバンクグループの創業者の孫正義(そん・まさよし)と、その父親の孫三憲(そん・みつのり)が中心に描かれています。そして、孫正義という創業経営者がどのように育ったのか、どういう価値観を持った経営者なのかについて、背景から理解の深まる一冊です。
孫三憲が創業者として影響を与えていたため、孫正義自身が自分のことを一代目ではなく一・五代目だと話し、本書のタイトルは『一・五代目 孫正義』とされています。
この本には感情が揺さぶられるところが多くありました。私はフライヤーの創業当初に孫正義の弟の泰蔵(たいぞう)さんにお世話になっていたことがあり、少しだけ孫家の教えについて話していただいたことがありました。当時うかがった話は強烈な体験に根差していたことを本書から知りました。
第一のインパクトは巻頭の写真にあります。親子のツーショット、バラック小屋の正義の生家、青年時代の兄正義と弟泰蔵の写真。どれも想像を超える苦労と様々な挑戦の末に今の姿があるということを生き生きと伝えるものです。
そして、全員が強い原体験をもとに志を抱くのではないとしても、深く刻まれた実体験に根差した志には重みと価値があるとも気づかされます。時系列は前後しますが、本書の順番にならい三憲の葬儀から紹介していきます。
孫正義による弔辞
孫三憲はがんとの闘病の末、 2023年11月4日にその豪快な人生の幕を閉じました。その人生がどのようなものであったか、孫正義の弔辞からうかがえることが多くあるので、引用していきます。
その弔辞は嗚咽で声にならないほどだったと本書には描写されています。
「ばあちゃんとじっちゃんと、ゼロからのスタートじゃないもんな、マイナスからのスタートやったもんな」
「朝鮮人!」「朝鮮人ってバカにされても、こんちくしょうと歯を食いしばって頑張った」
「アメリカに行くときに戸籍謄本取りに行ったよ。住所に佐賀県鳥栖市五軒道路無番地って書いてあったもんな。『無番地ってなんや、これ、なして無番地なんや』って聞いたら、『あそこはお前らが生まれた場所』『正義、しょうがないばい。国鉄の土地でね、線路脇に勝手に住み着いた。国鉄の人から出て行けと言われて、一、二日したら、また戻って住み着いた』。逞しかったなあ」
「バラックに豚を飼って...豚の小便、クソにまみれながらも、それでもね...。楽しかったばい。みんなで五軒バラックの跡地を見に行ったら、線路のすぐ脇や...。ガタン、ガタンと電車の音がした...。お父さん、お母さんが、焼酎を作って賑やかだった」
「お父さんと、お父さんの兄弟みんながそれなりに社長になった」
「マイナスからのスタートやったけど、俺、覚えとるよ。お父さんが酒飲んで酔っ払ったら、『正義、正義、俺たちの代は生きていかないかんかった、生きていかないかんから、パチンコやらなんやらしたけど、お前の代はね、そげんことせんでよか、金のための仕事せんでよか、立派な人間になってくれ。金のための人生はいやだ』と何回も何回も言ったよな」
印象の強かった箇所を抜粋しましたが、一言一言がすべて故人を表すようで、心に響く言葉が続きますので、ぜひ本文を見ていただきたいところです。
再び日本に住むまで
日本の敗戦当時、日本国内では朝鮮から渡ってきた在日朝鮮人がおよそ250万人ほどいたといいます。終戦と同時に「日本人ではない者」として差別を受け、特に九州では在日朝鮮人に対する差別が強かったそうです。
孫三憲がまだ子供だったころ、一度一家は韓国に戻ったものの生活が困窮を極めたため、再度日本に戻ろうと密航船に乗りました。
対馬を過ぎ、壱岐のあたりまで来た時、船の底から海水がなだれ込んできたそうです。必死にバケツで汲み出しても到底水の勢いには追い付かず、とうとうエンジンが止まりました。その後も手桶で水を汲み出し続けたがどうにもならず、全員が死ぬ運命だと思われました。
その時、遠くの海にかすかに漁船の灯火を見つけました。必死に叫んで漁船の船長が近づいてくると、密航船を日本に連れて行けないと。万事休すと思われたとき、難破船の奥にいた一人の男が数十万円の札束を見せ、それを全て渡すから助けてくれ、と伝えました。しばらくの沈黙の後、船長は船を曳航し始めました。
いかにぎりぎりの綱渡りで日本に戻ってきたかをもの語り、孫一家の強運を表すエピソードとも言えそうです。
父三憲の言葉
孫正義の父三憲の言葉のうち、代表的なものをいくつか紹介します。子である泰蔵には、「学校の先生は嘘ばかり言うけんな! 先生の言うことば聞いたらいかんぞ!」と言ったそうです。多くの親が子供に伝える言葉とはおそらく逆で、自分の子供にこのように伝えられる親はなかなかいないのではないでしょうか。人の言うことをうのみにせず、自分の頭で考えて行動しなさい、というよりもインパクトがあるのは間違いなさそうです。
また三憲の最後に遺した言葉は、「虎は死して皮を残す、人は死して名を残す」というものでした。子供たちに対して最後の場面でもなお、高尚な生き方を示したと本書で記されています。
一生を捧げられるものが見つかる
どのような商売をするにせよ、構造的大局的にそのビジネスモデルをとらえ、頭がちぎれるほど考え、答えを出していく姿勢は親子ともに共通するところです。
そして、孫正義氏は、売上を豆腐のように1丁2丁(1兆2兆)と数えるような会社にすると言い、それを実現すると時価総額を200兆円にすると言い、その目標に際限がありません。
ほとんどの経営者はどこかに一定の目標があって、それを実現すると個人の趣味、教育、社会貢献などに力を注いでいきます。しかし孫正義氏は違います。その際限のない欲求こそが、経営者としての圧倒的な強みとなっているようにも思えるのです。ここまでくると、おそらく個人の欲求ではなく集団や組織としての幸福を追求しているものでもあるようにも感じられます。
その際立った意思の強さがなぜ生じているのか。本書にはその答えが各所にちりばめられているようです。経営を志す人やスケールの大きな経営者と接する人であれば、本書を通読することをお薦めします。今までとは異なる解像度で経営者の内面を見られるようになるはずです。