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生き方

厳しい指導で学生が離れていった 大学教授が気づいた「ほめる」ことの意外な力

齋藤孝(明治大学文学部教授)

2026年04月17日 公開

ほめることは相手のためになるだけでなく、自分の心にも返ってきます。相手に良い影響を与えるだけでなく、自分にとっても毒消しにもなります。負の感情が芽生えた時にあえて相手をほめるとそうした感情は消えていきます。長年、大学の教壇に立ち数多くの学生を導いた齋藤孝教授がその極意をお教えします。

※本稿は、齋藤孝著「ほめるは人のためならず」(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

授業はほめた方がうまく行く

気持ちのいい会話をする技術があると、気持ちのいい会話ができる相手が増えていきます。

私は職業柄、さまざまな職場、テレビ局や大学へ行きますが、「ほめる」ことの必要性を日々実感しています。

30年間、大学生とつき合っているうちに年々、ほめた方が授業はうまく行くという傾向が強くなってきました。少々厳しめのことを言って気合いを入れ、反発心というものを期待するという時代が30年ほど前にはありましたが......。

しかし、反発心や反骨心を期待することがムダだということを年々学習しました。厳しめのことを言って、レジリエンス=復元力を活用して伸ばすことを期待するのは大変リスクがあると身をもって感じたのです。厳しく言えば、それだけ学生が減るという経験をしました。

講義を受講する学生が減ったのでは伸ばすも伸ばさないもありません、講義に来てくれないと話になりません。

ですから、私の講義では、学生たちを初回からいろいろな形でちょっとほめる、あるいは4人1組で課題をひとつ与えて、それをやったら、お互いにほめることだけを言ってもらうことにしています。ほめコメントしか言わないという限定つきでやると、安心してプレゼンテーションができるようになるのです。待っているのはほめることだけですから、ストレスなく発表ができるというわけ。それを順々にほめていってもらって、「誰が一番ほめ上手だったのか?」ということまで投票で決めています。

これを毎回授業でやった結果、出席率がすごくよくなりました。要するに、辞める人がいなくなったのです。

安心して発表ができる。自分が準備したものに対して必ずほめてもらえるので努力しがいがある。そういう声があって、それが当たり前になってくると今度は人をほめることがむしろ楽しくなってくるのです。

学生または子どもをほめて自分がうれしくなる、伸びていく学生または子どもの姿を見るのがうれしい。これが先生または大人のメンタルに変わっていくということです。だから大人になったと実感するためには、ほめるのは楽しいなと思えるようになること。これが大人になる通過儀礼となります。

ほめる技術がある。ほめるのが楽しいと感じる。今の時代、これが社会人としてのひとつの通過儀礼だと思います。

 

感じのいい人が評価される

先日、学生100人全員が発表して、ひと言ずつ全員をほめていくというのをやりました。ひとり15秒ずつ発表していく中で、ひと言ほめて100人。まるで100本ノックです。普通の人はやらないでしょうが、私は日常的にやっていて全ての発表に対してほめています。すると、「自分たちの発表に自信がなかったのにちょっと自信を持てた」「ポジティブに言ってくれるので、すごくよかった」と好評でした。

ほめることが習慣になっていると、ネガティブなことを言うことができません。ネガティブなことが出てきそうなのを戻してしまうというか、出ないようになる回路ができているのでしょう。これは訓練で誰でもできるようになります。

私は東京大学の法学部にいたので論理的な能力に非常に自信を持っていました。論理に自信があるということは、自分の見方で相手を反駁できるのです。要するに相手の痛いところを突くようなことを得意としていました。

そうした結果、友だちが減ってしまったのです。もちろん論理は使えるものですが、論理力というものが人を幸せにすることはあまりない、ということがわかったのです。コミュニケーションのためには気持ちのいい会話を心がけた方が結局いいのだと。同級生の中にも大会社の役員になっている人もいますが、みんな感じのよい人ばかり。

「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」という孔子の言葉があります。これは「かしこい人は迷わずに判断できる、心がしっかりしている人は心配しない、勇気がある人はおそれない。この3つの心が大切だ」という意味です。知、仁、勇の3点があるということですが、とりわけこの仁の気持ちと優しさというものが感情として表れているのですね。

感じのいい人がみんなに評価され、こんなに上に行く(出世する)時代だというのをとくと感じます。

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