
メンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さんは、かつて雑誌記者として1000名超の著名人のインタビューをしてきたご経験から「成功している人って、案外、いいかげん」だと気づいたといいます。
みんなが自己アピールする場面で、なぜか聴き役に徹する人の印象が残った理由とは?船見さんのご著書『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』より、成功者たちの意外なエピソードを3つご紹介します。
※本稿は、船見敏子著『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです
自己アピールゼロ
経営者が集まるパーティに参加したときのことです。どの社長も、名刺交換するなり、ご自身のことや自社製品のことを話してくれます。
さすがに社長だけあって、熱量が高いし話がうまい。私は圧倒されっぱなしで、聴き役に回るしかありませんでした。
そんな中、ちょっと変わった人がいました。私の名刺を見て、
「なぜメンタルヘルスのお仕事に転向されたんですか?」
「どのようなお悩みをよく相談されるのですか?」
と、あれやこれや訊いてくるのです。
「ほぉ〜」「へぇ〜」とあいづちを打ちながら質問を繰り返し、結局、その人は自分の話はまったくせず、立ち去って行きました。
自己アピールをしてなんぼの場なのに、アピールゼロ。ほかの社長たちと真逆な立ち居振る舞いを不思議に思いました。
翌日、私はその社長のことが妙に気になって調べてみました。なんと、複数の会社の経営を担ってきた「プロ経営者」だったのです!
彼は、私の話を「聴く」ことに徹していました。聴くとは、相手を理解しようと積極的に耳を傾けること。聴くことによって、相手は「自分を理解してくれる」と安心します。安心感が生まれると心を開きたくなります。そして、信頼関係が築きやすくなるのです。
ビジネスでは、信頼が最も重要。ゆえに、話して自己アピールすることよりも、しっかり聴くことのほうが何倍も大切です。
自己アピールなどしなくても、聴くことで相手にインパクトを残すことができる。聴くことを専門的に勉強してきた私ですが、プロ経営者の姿に、改めてそのパワーを思い知りました。
【いいかげんのすすめ】
話し下手でも、うなずき、あいづちを打つことで話は弾む
人にどう思われても気にしない
取材原稿を書いたら、事実に間違いがないかどうか先方にチェックしてもらう工程があります。特に著名人の場合は、イメージが大切な仕事なのでチェックは必須。時には、イメージにそぐわない文言に修正が入ることがあります。
ところが、稀にほとんど修正しない人たちがいます。長年、第一線で活躍を続けている超大物アーティストもそう。腰が低く、ジョークで笑わせてくれるなど、取材では気持ちよい対応をしてくれました。
1週間後。原稿を送りました。ドキドキしながら待っていると、予想外の返事が。
「先日はありがとうございました。このままでお願いします」
あまりのあっけなさに、気が抜けました。ホッとする一方で、「本当にちゃんと読んだのかな?」と不安にさえなりました。
しかしそのとき、ある音楽プロデューサーのこんな言葉を思い出しました。
「売れているアーティストは、セルフプロデュースがうまいんです」
まさに、このアーティストは、セルフプロデュースの達人です。デビューから一貫してイメージは変わっていません。音楽性もファッションも発するメッセージも、数十年ぶれていないのです。
私はインタビューの際、昔からのイメージを抱いて話を聴きました。そして彼らも想定通りの受け答えをしてくれました。だから、すらすらと原稿が書けたのです。イメージとは違う原稿の書きようがない、と言ってもいいでしょう。
修正が入らなかったのはそういうわけだったのだと、気づきました。商品も人も、一貫したイメージを見せるのが大事。それができると、一部の人に何を言われても、どう思われても、気にすることはなくなるのです。
【いいかげんのすすめ】
自分らしさを譲らなければ、スタイルはできあがる
人をあてにしない
「私はね、人をあてにしていないんですよ」
これは、中小企業の社長Sさんのポリシー。初対面で少し話したときに言われた言葉です。Sさんは、人をあてにしてがっかりするくらいなら、初めからしないほうがいいのだと、理由を教えてくれました。
社員に聞くと、実際、Sさんはとてもクール。すべての社員をさん付けで呼び、敬語で話します。社員のプライベートについてもほとんど詮索しませんし、忘年会や新年会以外は飲み会にも参加しないと言います。
社長だったら、社員を頼りにして当然だし、社員と深く交流すべきだと思っていた私は、冷たい人だなと感じました。
しかし、同時にSさんは、「嫌いな人はいない」とも言います。あてにしないけれど、嫌いな人もいない。どういうことなのだろう?と思っていたとき、「役割期待」という言葉に偶然、出合いました。 役割期待とは、他人に勝手に何かしらの役割を期待すること。たとえば、「社長なら社員を頼りにすべき」、「新入社員なら初々しくあるべき」といった具合です。
自分が社長から頼りにしてもらって嬉しかった経験がある人は、「社長なら社員を頼りにすべき」と自然に思うようになります。経験から生まれるそういった期待を、私たちは無意識に相手に求めてしまうのです。そしてその期待通りに相手が行動しないと、イラっとしてしまいます。
Sさんが「人をあてにしない」のは、勝手に期待して人に不満を感じないためだったのだとわかりました。それは人間関係でストレスをためない技術であると同時に、社員を心から信頼している証でもあるのだと思います。
【いいかげんのすすめ】
何かしてもらえたら「ラッキー」と思うくらいがちょうどいい