会議で振られて即答できる人と、頭が真っ白になって答えられない人...。この違いは語彙力ではないと、起業家の川岸宏司さんは語ります。
著書『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』では、川岸さんの実体験も交えて言語化のメゾットを紹介しています。その中から決断を早くする「自分の取扱説明書」について解説した一節をお届けします。
※本稿は、川岸宏司著『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
0.1秒で言葉が出る人の頭の中
会議で突然「どう思う?」と振られた瞬間、頭が真っ白になったことがある。大切な人に「ありがとう」を伝えたいのに、喉の奥で言葉が詰まったことがある。日記には書けるのに、いざ今日あったことを誰かに話そうとすると「まあ、いろいろ......」で終わってしまう。
これは私の結論として、語彙がないからではありません。言葉の「在庫」はあるのに、必要な瞬間に「棚から取り出す速度」が追いついていないからだと思っています。
たとえば、倉庫にはたくさんの工具が詰まっているのに、どの引き出しに何が入っているか整理されていない状態。ドライバーが必要な瞬間に金槌を掴んでしまったり、あるいは、引き出しを開けるのに時間がかかりすぎて、手ぶらのまま立ち尽くしてしまう......そんな状態です。
決断が鬼速な人の「自分の取扱説明書」
ランチのメニューを選ぶのに5分かかる人がいます。一方で、新しい挑戦のような大きな決断を、驚くほどあっさり下す人がいます。この差は、頭のよさでも度胸の大きさでもありません。「自分の判断基準が言語化されているかどうか」です。
たとえば私の場合、判断に迷ったときの最終基準は「カッコいいか、カッコ悪いか」です。損得でも正誤でもなく、自分がその選択を10年後に振り返ったときに胸を張れるかどうか。これが言語化されてからは、判断のスピードが劇的に変わりました。
逆に、この基準がなかった20代の頃は悲惨でした。新しい事業をやるかどうかで何ヶ月も悩み、その間に3人の友人、2人の先輩、1人の経営者仲間に相談し、結局「もう少し考えます」で終わる。
決められない人の頭の中には、5人の住人がいます。具体的に言うと、「まだ情報が足りない」と永遠に調査を続ける完璧主義の自分、「失敗したらどうしよう」と怯える8歳児の自分、「普通はどうするんだろう」とSNSを漁る比較の自分、「今のままでよくない?」と現状維持を囁く怠け者の自分、「どっちを選んでも後悔する」と呪いをかける予言者の自分......。この5人が同時に喋るから、頭がパンクして「まあ、いろいろ......」で終わっているのだと思います。
多くの人は、判断基準を持ちすぎています。だからこそ、判断基準をひとつに限定できる人は違います。5人が騒ぎ始めた瞬間に、「で、それはカッコいいのか?」の一言で全員が黙る。基準が1つあるだけで、脳内会議が一瞬で終わる。そんなイメージです。
5つの判断基準から理想の自分像が見えてくる
では、どうやって判断基準を言語化するのか。私がおすすめしているのは「自分の取扱説明書」をつくることです。書くのは5つだけ。
①判断の軸:何を基準に決めるか
私の場合は「カッコいいか、カッコ悪いか」です。ちなみにこれ、正解はありません。自分にしっくりくる一言を見つける、それだけでいいですし、変わってもいいです。
②人間関係のスタンス:人とどう関わるか
私の場合は「来るもの拒まず、でも迎合せず。好きなときに好きな言葉を投げられない関係性なら維持しない」です。これが言語化されてから、人付き合いのストレスが激減しました。
③失敗への向き合い方:うまくいかないとき、どうするか
私の場合は「失敗をまずは惰性か全力かで判断し、前者は自分を許さない。後者は認める。また、失敗を笑う外野は許さない」です。きれいに取り繕わず、素直に言葉にしてみてください。
④時間の優先順位:何に時間を使うか
私の場合は「自分と家族、友人、社員を優先。他者の人生は生きない」です。ここは特に世間の「正しい」に目を向けず、自分の理想に目を向けてください。
⑤絶対にNOと言うこと:これだけは譲らない
最後に、私の場合は「誰かの人生を生きること。生殺与奪の権利を握られること」です。絶対に嫌な自分を言語化してみてください。
この5項目が埋まった瞬間、あなたの脳内に超最適で理想の自分像が生まれます。
理由が明確だから、信用に繋がる
取扱説明書の最大のメリットは、判断に迷わなくなることではありません。「なんとなく」が消えることです。なんとなくコーヒーを選び、なんとなくその服を着る。この「なんとなく」は、判断基準が言語化されていないために起きます。
取扱説明書が完成すると、すべての選択に「理由」が生まれます。
「なぜこの仕事を引き受けたのか」→家族に話せる仕事だから
「なぜこの誘いを断ったのか」→他者の人生を生きることになるから
「なぜこの失敗を許せるのか」→全力でやった結果だから
理由がある選択は、後悔しません。そして、理由を言語化できる人は、他人にも自分の判断を説明できます。説明できるから信頼される。信頼されるから、さらに大きな決断を任される。この好循環が回り始めます。
1つだけ注意点があります。この取扱説明書は「完成品」ではなく「メモ」です。20代の自分と40代の自分では、判断基準が変わっていて当然です。半年に1回くらい見返して、「これ、まだ自分にフィットしてるかな」と確認してみてください。合わなくなっていたら書き換える。それ自体が、感情の言語化のトレーニングになります。
取扱説明書は、自分という複雑な人間を、自分自身が扱いやすくするための翻訳作業です。翻訳が終われば、0.1秒の判断は自然とついてきます。