ストレス社会が生み出す障害の代表例、適応障害とはどんなものなのか。精神科医の岡田尊司氏が、その原因と症状を詳しく解説し、適応障害の克服に必要な、2つのポイントを紹介する。
※本稿は、岡田尊司著『働く人のための精神医学』(PHP新書)から一部を抜粋し、編集したものです。
ストレス社会が生み出す障害の代表例
ストレスによる反応としてよく見られる状態は、適応障害と呼ばれるもので、新しいストレスに慣れることができず、次第に心の変調となって現れ始めた状態である。
まだ今のところ、体を壊すとか脳が萎縮するような変化を起こすといった段階にまでは進んでいない。馴染めない環境というストレスから解放されれば、すぐにでも元気を回復することができる。
適切なサポートがあれば、慣れなかった環境に次第に馴染んだり、行き詰まっていた問題が解決されて、環境に適応できるようになるとともに、症状が消えていく場合もある。
しかし、あまりにも本人の適性や志向とのギャップが大きいと、どんなサポートもうまくいかず、そこに長居すればするほどダメージが深まっていくという場合もある。体を壊してしまったり、うつ病にまで進行してしまったりすることもある。
その場合は、早く見切りをつけて、環境のほうを変えてしまったほうがよい。
両者の見極めが大事ということになる。あまり安易に次々環境を変えていたのでは、本人の適応力が培われないし、何事も大成できないということになる。
石の上にも3年という頑張りも、ある部分では必要である。かといって、本人が死ぬほど厭がっていることを、無理に続けようとしても、時間をロスした上に、事態が悪化するだけである。
適応障害の原因と症状
適応障害の段階では、ストレス反応が強まっているが、まだ完全に精神の平衡を破壊するまでには至っていない。天秤と同じで、環境的な負荷がなくなれば、元の状態に速やかに戻っていく。
きっかけとして多いのは、生活環境の変化である。新しい土地や職場、学校に移ることや、昇進、配置転換、留学なども、頻度の高いものである。
また、対人関係のトラブルや孤立、離別や死別も、重要な要因である。原因となる出来事や変化から、1カ月以内に症状が現れることが多いが、適応力がある程度高い人では、かなり遅れて出てくる場合もある。
何とかうまくやろうと、あれこれ努力したものの、ついに限界に達してしまうのである。
適応障害の特徴は、同じ環境(の変化)であっても、それがストレスになるかならないかは、個人差が大きいということである。その人にとっては、非常に苦痛な環境も、別の人にとっては、快適であるということも、しばしばだ。
したがって、どの部分で、どんなふうに合わないのかということを、よく把握し、その人にとって、どう感じられるのかという共感的な視点で、本人の言い分や気持ちを受け止めることが重要になる。
他の人は、そんなふうには思わないとか、そこまで傷つく必要はないといった、第三者の視点でいくら説得したり、慰めようとしても、本人としては、自分の苦しさはわかってもらえないと感じるだけである。
症状にも個人差が大きく、多彩であるのが特徴だ。もっとも多いのは、気分が塞ぐ(抑うつ気分)、イライラや不安が強い、集中力や根気がない、しなければいけないことに手がつかないといったもので、うつ状態によく見られる症状である。
ただ、うつ病と異なる点は、良いことや好きなことがあると、元気や明るさがすぐに戻り、気分反応性が保たれていることである。また、体重減少や体や頭の動きが緩慢になるといった症状も、比較的軽度である。
人によっては、攻撃的な行動や言動が増えたり、人や物に当たるようになる場合や退行現象が現れることもある。
通常は6カ月以内に回復するが、環境要因が改善しない場合には長引くことも多く、その場合は、遷延性抑うつ反応といった言い方をすることもある。