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なぜ「部下の話を聞く」のは重要なのか? 管理職に求められるスキル

井上洋市朗(株式会社カイラボ代表取締役)

2025年03月24日 公開

なぜ「部下の話を聞く」のは重要なのか? 管理職に求められるスキル

現在、50%以上の企業で人手不足が起きており、1人の求職者に2つ以上の求人があるというデータが出ています。人手不足の中で、若手の離職問題に頭を抱えている企業も少なくないでしょう。若手の離職防止のカギについて、書籍『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』から紹介します。

※本稿は、井上洋市朗著『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。

 

「承認、傾聴、共感」が離職防止のカギ

企業が人に選ばれる時代では、企業が人を選んでいた時代とはコミュニケーションのあり方も変化します。かつて企業と個人の関係は、上下の関係、命令と服従の関係でした。配属の命令に服従する代わりに、終身雇用や年功序列で報いるような関係です。

しかし、今は違います。これからは、企業と個人との信頼関係がより重要です。信頼関係が崩れてしまっては、社員の定着率向上は見込めません。

信頼関係構築のために大切なのが、話の聞き方です。いくら仕事ができる上司でも、自分の話を聞いてくれないと感じれば、部下の立場では上司との信頼関係構築は難しいものです。

インタビューでも、上司に対して「話しかけにくい雰囲気」「話を聞いてくれない」という意見を聞くことは少なくありません。いくつか例をご紹介します。

「(上司に対して)『部下を駒としてしか見ていない』と感じていました。評価面談でのフィードバックも『私のことをちゃんと見てくれてないな』と感じることが多かったです。事前にスケジュールしていた評価面談を勝手にスキップされることもあり、不信感がありました。私に対してだけではなく、ほかのメンバーに対しても同じようなことをしている人でしたね」
(慶應義塾大学卒業、大手IT企業を2年10か月で退職)

「課長はすごく仕事ができる人でしたが、かなり変わっている人で、部署の人からはすごく嫌われていました。でも、私個人としてはすごく尊敬できる人でした。みんなは、課長を『話しかけにくい雰囲気でつかみどころがない』と感じていたようですが、私は新人なので話しかけてもらえることも多く、話しかけにくいとは思いませんでした。

(辞める相談ができなかった理由は)忙しくて外出していたり、会議に入っていたりが多かったので、結局、相談はできませんでした。辞めると言いに行ったときは『気づいてあげられなくてごめんね』と言われました」
(立教大学卒業、大手損保会社を6か月で退職)

2人目の方はおもしろい例です。周囲は「話しかけにくい」と感じていた上司でも、自分にとっては尊敬できる人で、その理由を「課長から話しかけてくれたから」と言っています。「信頼関係づくりのための声掛け」ができていたからこそ信頼関係ができていたのでしょう。

一方で、部下の話を聞くという点においては、課長には課題があったようです。多くの管理職がプレイングマネージャーの今の時代においては、部下の話をしっかり聞けるかどうかは社員の定着という点でも非常に重要です。

 

なぜ今「傾聴」することが重要なのか?

「傾聴」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。

最近では、管理職研修やOJT担当者・メンター研修で、傾聴の内容を入れてほしいというご要望は非常に多くなっています。それだけ、多くの企業が傾聴の重要性を感じるとともに、コミュニケーション課題と認識していることの裏返しでもあります。

傾聴は「積極的傾聴」とも呼ばれます。厚労省が運営する「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」(https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/)では、以下のような解説が載っています。

「積極的傾聴(Active Listening)」は、米国の心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱されました。

ロジャーズは、自らがカウンセリングをおこなった多くの事例(クライエント)を分析し、カウンセリングが有効であった事例に共通していた聴く側の3要素として「共感的理解」「無条件の肯定的関心」、「自己一致」をあげ、これらの人間尊重の態度にもとづくカウンセリングを提唱しました。

「共感的理解」にもとづく傾聴とは、具体的に言うと、聴き手が相手の話を聴くときに、相手の立場になって、相手の気持ちに共感しながら聴くことです。

「無条件の肯定的関心」を持った傾聴とは、相手の話の内容が、たとえ非常識な内容であっても、初めから否定することなく、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴くことです。

「自己一致」にもとづく傾聴とは、聴く側も自分の気持ちを大切にし、もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴き直して内容を確かめるなど、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴くことです。

ここで紹介されている「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の3つは、ロジャーズの3原則と呼ばれ、傾聴の基本です。どんな内容であっても、いきなり相手を否定しない、共感しながら聞くという点は、多くの方が「今の時代に必要だ」と感じているのではないでしょうか。

傾聴の力は、管理職やOJT担当などだけでなく、若手社会人にも求められています。経済産業省が掲げる「人生100年時代の社会人基礎力」の中で、社会人に必要な12の能力要素の一つとして「傾聴力」があげられています。

これほどまで傾聴力が求められる理由の一つが、共感の重要性です。ロジャーズの3原則に共感的理解があることからもわかるように、傾聴と共感は深い関係にあります。

昨今、ビジネスでの「共感」の重要性は高まっています。マーケティングの領域では共感マーケティングという言葉があるほどです。

人材確保においても「共感採用」という言葉があります。処遇や福利厚生ではなく、企業の理念やパーパス、ミッション、ビジョンに共感できる人を集める手法です。

共感を集めるためには、情報発信だけではなく、相手の考えを深く知ることも重要です。そして、相手の考えを深く知るために重要なのが傾聴なのです。

 

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