森山世衣さん
2026年6月24日、長編エンターテインメント小説を対象とした「松本清張賞」の贈呈式が行われました。第33回授賞作は、森山世衣さんの『ひなたの中継点』。女子高校駅伝をテーマに、競技の喜びと過酷さを描いた長編小説です。本稿では贈呈式の様子をレポートします。
「走ることの楽しさを伝えてくれる小説」
森見登美彦さん
選考委員を代表して登壇した作家の森見登美彦さんは、自身が「走ることが大嫌い」であると言及して会場の笑いを誘いつつ、本作を「走る楽しさを伝えてくれる小説」と評しました。
森見さんは、ランナーの世界に馴染みがなかったものの、読後には「走るのもいいかもしれない」と感じたと振り返ります。読者が主人公とともに走っているような感覚を味わえる点に、小説としての力を感じたと語りました。
また森見さんは、今回の候補作全体を振り返り、現代を描く小説では戦争や差別、抑圧など、重い題材が扱われる傾向があると指摘。そのような題材を支えるには、その題材に拮抗する「主人公のエネルギー」が必要だと述べました。
その点で『ひなたの中継点』は、駅伝の負の側面を逃げずに描きながら、それでも競技を楽しく実りあるものにしていこうとする主人公の気持ちが、作品を支えていると評価しました。
森見さんは最後に、「青春の瑞々しさ、あるいは青春が終わった後もどうやってエネルギーのある人生を送っていけるか、ということを書くのがすごくお上手だと思う。それを忘れないように、これからも書いていただきたい」と今後への期待を述べました。
森山世衣さん「しがみついて書いていきたい」
森山さんは選考に関わった人たちへ感謝を伝えたうえで、『ひなたの中継点』創作の出発点について、自身が女子陸上を経験したことから「女性がスポーツをするということの過酷さを物語で描いてみたい」と考えたと明かしました。
しかし、それだけでなく「走ることが本当に好き」という思いから、競技の魅力もあわせて伝えたかったといいます。その結果、本作は、さまざまなジャンルや空気感が混ざり合う作品になったと説明しました。
読み手にどう受け取られるかという不安もあったと率直に明かした森山さんですが、松本清張賞に対して「器の広い賞」という印象を持っていたことから、思い切って応募を決めたといいます。
スピーチ後半では、今この時代に性別や出自を問わず作家を目指せる環境について言及しながら、書き続けることへの思いをこう締めくくりました。
「自分が書く理由や、どう書いていくかということを探求しながら、面白いと読んでいただけるうちは、しがみついて必死に書き続けられるように精進してまいりたいです」
『ひなたの中継点』は、2026年9月下旬に刊行される予定です。