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生き方

心の手紙を届けたい。― 4年目を迎えた「恋文大賞」

柿本新也(「恋文大賞」実行委員長/柿本商事5代目当主)

2013年06月14日 公開 2022年12月19日 更新

『心の手紙を届けたい。』より》

 歴史が大きく変わろうとするその真っ只中にいる時代は、心をとらえた一通の手紙の存在すら置き忘れてしまう。
   

 ITの発達により、私たちの生活や行動は一変したと言っても過言ではないでしょう。固定電話から携帯電話、そしてメールでのやりとりが日常となってしまった今、手紙を書くという行為はほとんどなくなってしまったかの様にも見えます。

 デジタル社会が創り出す進化のスピード、そしてインターネットの普及は、居ながらにして世界各国のありとあらゆる情報をいとも簡単に入手することができると共に、時差の問題さえクリアすれば、スカイプを使って複数の世界中の人々とリアルタイムでテレビ電話のような交信も可能にしてくれました。

 IT革命とその普及スピードは、新しいビジネスモデルを生みだし、ライフスタイルまで一変させてしまいました。今やITは、私たちにとってなくてはならない存在です。

 ただ、私のような年齢のものだけが感じているのかもしれませんが、メール等の伝達文はともかく、いろいろな情報を目にし、それを調べたりする時、パソコンの画面やスマートフォン等の携帯端末からは素直に文字が頭に入ってこないのも事実です。結局、それらの画面にある情報を紙に打ち直して読むという行為を自然に行っているのです。

 さて、2010年に創設した『恋文大賞』の世界には、人が心の中でずうっと持ち続けている思いが、一通の手紙となって数多く集まって来ます。

 幼い頃の両親の思い出を今ふたたび自分自身の中で感じとる手紙。真夏の潮騒の音や黄昏の秋の空に思いを馳せる青春真っ只中の手紙には友人や恋人、そして当然恩師の姿まで見え隠れします。また、長年寄りそって来た伴侶への思いを綴った感謝の手紙、おじいちゃんやおばあちゃんへの思い出、家族の一員でもあり心癒してくれるペットへの思いを認めた手紙まで、多くの貴重なお手紙が届きます。

 人にはありとあらゆる原風景が人の数だけあります。心の内に秘かにしまい込んであるもの、口には出しづらかったもの……。しかし、そういうものほど手紙に認め始めると、記憶が呼び戻され、その時の大切な思いがよみがえってくるものです。

 『恋文大賞』に集まった多くの手紙は、宝石箱を開けたようにキラキラ輝いています。たとえそれが悲しみにうちひしがれた内容でも、その文字や文章からその人の人柄までも伝わってきて、人生観まで読み取ることができるのです。なかには文章に表現されていない言葉を、その行間から読ませるほどの力作もあります。

 紙のもつ温もり、質感、インキの香り、そして何より手書き文字から伝わってくるその人の人間性。読み返すたびに涙する手紙、深く心を打たれる手紙が何と多いことか。

 ITの普及と氾濫の中で、何か無機質なものを感じながら生きている日常に、私は『恋文大賞』で集まった手紙が、焔の輪のように広がっていくのを感じています。

 『恋文大賞』に寄せられる手紙、それは返事のこない一方通行の手紙です。そこに皆さんは精一杯の愛をのせて届けて下さいます。ITがいかに進化をとげ、生活の中で私たちがその恩恵に浴しそれを謳歌しても、何故か空虚な風が心のどこかに吹き込むと感じているのは、どうやら私だけではなさそうです。そのことに対する共感性を私は『恋文大賞』の活動の中に肌で感じるのです。


 

2010年に創設され、本年で第4回目を迎える「恋文大賞」。過去3回に寄せられた手紙の中には、心からの愛しさ、癒しがたい悲しみ、尽くせない感謝の気持ち……そんな溢れる思いが込められています。このたび、入選作品75点をまとめ「恋文大賞感動入選作品集『心の手紙を届けたい。』」を発刊させていただきました。

ここでは、その中から、入選作3点をご紹介します。

「あなたへ」 ―― 宮城県気仙沼市 菅原文子
「父さんへ」 ―― 和歌山県日高郡 みなべ町立南部中学校3年 中村美月
「ヤマガラと子供達と妻へ」 ―― 岐阜県各務原市 山上強志

また、本書には「ビジュアル部門」で絵手紙や写真などの入選作も収録しています。ぜひご覧ください。きっとあなたの心にも、書き手・送り手の思いが届きます。

 

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