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生き方

心の手紙を届けたい。― 4年目を迎えた「恋文大賞」

柿本新也(「恋文大賞」実行委員長/柿本商事5代目当主)

2013年06月14日 公開 2022年12月19日 更新

 

「父さんへ」 ―― 和歌山県日高郡 みなべ町立南部中学校3年 中村美月

父さんに手紙を書くのは初めてだね。
私は今、十四歳で反抗期の真っただ中。
でも不思議と周りの子達の様に、「親なんてっ」と思ったことが無いんだ。
その理由はきっと、父さんと母さんが私のために、いろんなことをしてくれてるのを知ってるからだと思う。
とりわけ、同じ歳の子達は父親を嫌うけど、私の中ではそんなことありえない。
だって、くやしいから普段は口にしないけど父さんよりおもしろくて、尊敬できる人に私は今まで出会ったことが無いもの。
私は今、テニス部の副キャプテンをしていて今年の夏で引退する。
テニス部としての最後の夏、正直すごく不安だったし恐かった。
最後なのに後悔で終わったらどうしようってずっと考えてた。
どんどん大会までの毎日がすぎていく時に、父さんが話してくれたことを今でもちゃんと覚えてる。
「お父さんがえらそうに言えることじゃないけど、どんなとこでも、どんな状況でも、上を目指すためにはやっぱりそれだけのリスクが必要なんだ。」
そう言って真剣に私の目をまっすぐ見ながら父さんが話していくのを聞いてるうちに、父さんは気付いて無かったけど、私必死に泣くの、こらえてたんだよ。
いろんな不安だったことが、ああ、そうだったんだって思えてすごく安心したんだ。
あの時は、父さんが私か読んでる本に出てくる、主人公を助けて何も無い所に道を作ってくれる魔法使いに見えたんだ。
大会を終えて笑顔で引退したら、また父さんのかっこいいバイクに乗せてね。二人で風と遊ぽうよ。
私は今、反抗期。
だから面と向かって「ありがとう。」つて言わないよ。
それに私、決めたんだから。
次に手紙を送るのも、
最高の「ありがとう」をたくさん聞かせてあげるのも全部、私の結婚式の時にプレゼントするって。
   


     

「ヤマガラと子供達と妻へ」 ―― 岐阜県各務原市 山上強志

「今日は私の番ですからね」
婆さんは、縁側の陽だまりの座布団に小さく座り、庭の植込みの向こうを見ている。
庭先の柿の木の紅葉も枝にわずかだ。
「もう、そろそろですね」
皮付きピーナッツニ、三粒を掌に載せ転がす。
すると、やっぱり、どこからかスイッーとやってくる。
柿の木の枝先をかすめるようにして、それはまさに胸が透くばかりにスイッーと、指先にやってくる。指先にとまり、黒くて真ん丸な日玉がおさまった頭を思案げに動かし、ピーナッツを啣え、飛び立つ。
次が来る。
欠片も交じっていて、早まって欠片を啣えてしまった時には大きな粒に啣え直す。
で、大きな粒からなくなっていく。
初めは皿に載せて縁先に置いた。
ある日、袋から皿に移そうとした爺さんである私の手にいきなりやってきた。
それからだ。
今では婆さんと交替である。婆さんもあのときめきを知ったのだろうか。
ヤマガラが指にとまった。その時、爺さんの身体の奥の背骨の裏側あたりに、電撃のようなものが走った。
すっかり錆付いてしまった頭に、ああ、これはっと、ポッと明かりが灯った。
産まれたての息子に指先を握られた、その時の想いとそっくりだ。
それに、若かった妻の手に初めて触れた時の感じでもあった。
「来てよし、帰ってよし」
「何か、ですか」
二人の息子たちは結婚し、町で生活している。
この盆の時は賑やかだったが、疲れた。それに、帰った後が辛い。
今度この山里に来るのはお正月になる。それまでは誰もやってこない、のだろう。
近所の親しかった者も町場の子供に引き取られたり、向こうの世界に逝ってしまった。
だから、お前たちは明日もくるんだぞ。
「生命」の明かり、と、今は、はっきり見えるのです。
 


<書籍紹介>

「KYOTO KAKIMOTO 恋文大賞」感動入選作品集
心の手紙を届けたい。

「恋文大賞」編集委員会編
本体価格1,200円

いま話題の「恋文大賞」の優秀作品集。恋心、感謝、お詫び……さまざまな熱い想いが凝縮された感動の「手紙」75通を収録。

<<恋文大賞 公式ホームページ>>

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