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生き方

40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。

成毛眞(HONZ代表)

2013年06月13日 公開 2022年12月21日 更新

《『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。』より》

 

“全力で”脱力系の生き方を

みなさんは、クマムシという生き物を知っているだろうか。

クマムシは体長が1mmにも満たない、顕微鏡でしか確認できない極小の生き物だ。4対8本足で歩き、モスラのような風貌をしている。その多くは苔に生息しているという。

クマムシは水がなくてもエサがなくても生きていける、地球最強の生き物だといわれている。摂氏150℃でもマイナス200℃でも生きていけるし、空気のない宇宙でも放射線を浴びても、寝たようになってやり過ごす。120年間も眠っていて、水をかけた途端に活動を始めた例もあるという。息を潜めて生きている生き物なのだ。

これからのミドルエイジに必要なのは、クマムシのようなしぶとさではないだろうか。

2013年4月、「65歳定年制」が施行された。

ビジネスマンは、希望すれば65歳まで働けるようになったのである。

このニュースを聞いて、みなさんはどう思っただろうか。

定年から年金支給開始年齢までの“つなぎの仕事”を探さずに済む。身体が動くうちは働けるから嬉しい。そう喜んでいる人がいるなら、大間違いである。生涯年収はさほど変わらずに労働時間が増えるだけ、という結果になるかもしれないのだ。

60歳の社員が、そのままの雇用条件で65歳まで働かせてもらえるわけではない。企業にとっては人件費が嵩むだけだからである。

たとえば、三菱電機は「定年年齢選択型給料」を採用している。

55歳になったとき、現状維持のまま60歳で退職するか、65歳まで働きたいのなら給料カットを呑むかという、どちらかを選択しなければならない。65歳を選んだ場合は、56歳で子会社に出向となり、給料は2割カット、60歳からは5割カットされるという。5年間多く働いても、生涯賃金は900万円しか増えないというのだから、冷や飯を食うために最後の会社員人生を使うようなものだ。

逆に、定年を延長したために生涯賃金が減るケースもあるぐらいである。

働く場を得たいのか、お金がほしいのか――。

これからのビジネスマンは、50代になるころに、このどちらかを選ばなくてはならないのである。

給料は新入社員並みになったとしても、そこそこ働いて社会とつながっていたい人は、65歳まで働くほうを選べばいいだろう。7割を自分の時間に充て、残り3割の時間を仕事に充てるぐらいでちょうどいい。

できるだけお金がほしいのなら、いますぐにでもサイドビジネスを始めて新たな生活の基盤を築き、早めに会社を辞めて退職金を多めにもらったほうがいいかもしれない。

ただし、65歳まで残る道を選んだとしても、安穏な生活を送ってはいられないだろう。

自民党は、正社員を解雇しやすくする法律をつくろうとしている。定年が延びてもクビを斬ることができるなら、経営者はどういう判断をするか。元気溢れる労働力の若者を安く雇ってこき使い、賃金が高いわりには働きの悪いミドルエイジのクビを率先して斬るだろう。日本の旧きよき終身雇用制度が完全崩壊するのだ。

日本もいよいよ、欧米型の実力主義の社会になっていく。

そのような時代に、ミドルエイジはいかに生きていくべきか――。

そこで、冒頭のクマムシが手本になる。

いま、40代以上のビジネスマンが考えるべきは、いかに会社で息を潜め、“外の世界を切り拓くか”である。ストレスがかからない仕事を選び、健康な身体を保ちながら、趣味やサイドビジネスに全力を注ぐ。クマムシは仰向けになるとなかなか起き上がれないので、転ばないよう注意しなければならない。

会社で上司や部下とケンカをしたり、取引先に無理難題をいわれてため息をつくなど、息のムダ遣いである。風に吹かれる柳のように、ニコニコ笑っていればいい。

頑張りが報われない時代になったのも、みなさんのせいではない。だからこれ以上、会社に尽くさなくてもいいのだ。

本書で提案するのは、“全力で”脱力系の生き方を追い求めるための方法論である。

これからのミドルエイジに必要なのは「仕事論」ではなく、外の世界をいかに切り拓いていくかという「脱力論」なのだ。

日本の40代以上のビジネスマンの9割は、仕事に全力を注ぐ必要はない。どこかの本のタイトルにありそうだが、私は心底そう思っている。

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