幸福度の高いスウェーデンでは、どのように時間をつかい、仕事とプライベートのバランスを保っているのでしょうか。大半のビジネスパーソンが17時に退勤できるのは、午前中の時間の使い方に秘密があるといいます。
スウェーデン在住の久山葉子さんは、著書『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』の中で、現地でのインタビューをもとにスウェーデンの働き方・生き方を語っています。本稿では同書より、午前中の時間の使い方と、残業が非効率的である理由についてご紹介します。
※本稿は、久山葉子著『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・編集したものです。
〈単調な作業〉を午後に取っておく…ランチを食べなくても、昼過ぎは脳が働かない
ストローニ博士の説明では、人間の脳は12時間に1度眠くなるというリズムになっている。夜遅くに眠気をもよおすのはもちろんだが、昼にも脳が休憩を求めてくるというのだ。
私もランチ後に睡魔に襲われるというのにはおおいに覚えがあるが、それは血糖値スパイクのせいだと思っていた。しかしランチを食べなくても、昼過ぎに脳の活動が下がることが判明している。つまり、ランチ直後に頭を使う作業は非効率なのだ。
自宅で働く人なら、脳が休憩を求めるその時間帯に昼寝をしたり、夕食の下準備といった家事をすませることもできる。オフィスで働いている人はそうはいかないが、形式的なメールの返信、単純な事務作業など、頭を使わなくてもできる作業をするという手がある。
ポイントは、クリエイティブで集中できる朝の貴重な時間をそういう簡単な作業に使ってしまわずに、あえて午後まで取っておくことだ。
ランチ後は散歩に時間を使うのも理にかなっている。身体を動かすことで認知機能が上がるし、血糖値が早く下がって眠気も緩和できる。
「黄昏時の奇跡」…夕方に再び戻ってくる集中力
では、朝を逃すと集中したり、クリエイティブな作業をしたりはできないのか。安心してほしい。集中力は15~16時頃にまた戻ってくる。
そこでやり残した仕事をピンポイントで進めることができる。たいていの職業の人なら、15~17時の2時間が「黄昏時の奇跡」。集中して仕事を進められるだろう。
ただ、残業しがちな人というのは、その集中力のまま定時後も作業を進めたいのかもしれない。
実際私も、翻訳をしていると15時くらいから調子が出てきて、夕食をつくる時間になっても中断したくないのが本音だ。
しかしスウェーデンの夕食は17時、ということは16時にはつくり始めなければいけない。そこで、昼過ぎに脳が休憩している時間帯に夕食の下準備をしておいて、集中力がみなぎる夕方は16時半まで、夫が夕食をつくる日は17時まで仕事をしている。とにかく貴重な15~17時を有効活用できるよう計画しているのだ。
だからこそ朝時間が大事
出社して働くスウェーデン人はいくら集中力がのっていても、16~17時には仕事を切り上げて退社する。それがなぜかというと「人生で一番大事なのは仕事ではない」からだ。
仕事より大事なことが色々あって夕方以降は忙しい。だからこそ、午前中のクリエイティブの波と集中モードをがっつり活用して、できるだけ昼前には大事な仕事をすませておく。
逆に、昼過ぎは仕事がはかどらないもの。私自身もこれまで、「なぜ午前中と同じパフォーマンスを出せないのか」と自分を責めていたが、それが実に正常な脳のあり方なのだと理解し、その事実を受け入れて、計画を立てられるようになった。
4時間以上集中すると、翌日の生産性が低下…〈残業をしない〉科学的メリット
肝心なのが、「残業をしないこと」だ。やりすぎると、翌日に響くことが証明されている。
49人のウィーン医科大学の学生に勉強時間や疲労度を報告してもらった2023年の研究で、1日に4時間以上集中した場合、夜ちゃんと寝ても疲れが翌日に残ってしまい、翌日のパフォーマンスに負担がかかるという結果が出ている。
午前中に3時間、夕方に1時間集中的に仕事をしたら、あとは帰るスウェーデン人(おそらくオーストリア人も?)の働き方がいかに理にかなっているか、私もこの研究結果を読んで驚いてしまった。スウェーデン在住日本人の多くも、「残業しても能率が下がるだけ」と言っていたが、それは本当に正しかったのだ。
脳をだまして「締め切りの奇跡」を起こせ
〈パーキンソンの法則〉のことも覚えておくとよいだろう。
1955年にイギリスの歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンが「仕事の量は、完成までに与えられた時間をすべて使おうとするかのように膨張していく」と語ったのが名前の由来だ。
人間の脳は、その作業に与えられた時間をすべて使おうとするものらしい。そこには完璧主義や先延ばし、疲労や退屈といった様々な心理が関わっている。
ある仕事をどうしても1日でやらなければならないとすると、優先順位をしっかりつけて、一番大事なことから手をつけ、時間内にできることをやって提出するだろう。クオリティは100%ではないかもしれないが、わかりやすく20/80の法則にのっとれば、普段の20%の時間で80%の成果を出せた実感がある。
同じ仕事を今週中にやればいいとなると、最初はなかなかエンジンもかからないし、こだわったり丁寧にやったりして、最後には100%のクオリティになるかもしれないが、5倍の時間がかかる。ということは1日あたりの成果は20%ということになる。
私自身も覚えがある。翻訳の締め切りが何カ月も先だと思っているとまったく進まないが、逆に「やばい! あと4週間しかない!」と焦ると奇跡的に締め切りに間に合う。今までの人生で何度、「締め切りの奇跡」が起きたか知れない。
残業に話を戻すと、「まあ、今日は20時までやってもいいか」と思えば20時までかかる。「17時に絶対に帰る!」と思えば間に合わせることができるかもしれないし、少し残っても翌日早めに来れば間に合うかもしれない。
脳は締め切りに合わせる。だからこそ、仕事を始める前に「今日は絶対に○時に帰る」、そう自分に宣言しよう。そうすれば脳がおのずとその締め切りに合わせてくれるだろう。