かつては目指すべきだったキャリアの到達点である"管理職"。ところが現在は、多様化する価値観への対応や責任の増加などもあり、単に「昇進=喜ばしい出来事」ではないと考える人も増えてきています。
そうした状況において「管理職がもっとも孤独になっている」と語る、Smart相談室CEOの藤田康男さん。本稿では、Smart相談室が長年実施しているカウンセラーアンケートを基に、働く人たちが抱えている「管理職に関する悩み」を紐解いていきます。
※本稿は、藤田康男著『悩みの統計学』(扶桑社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「管理職」に関する悩みを抱える社会人は一定数いる
■24.8%が「管理職になりたくない」と悩んでいる
社会の流れ通りに、管理職を目指したくないと考える人は増えているように思います。カウンセラーアンケートによると、相談者の24.8%が「管理職になりたくない」と悩んでいます。その背景には、「責任は増えるのに報酬が見合わない」「プレイヤー業務とマネジメント業務の両方を担わなければならない」「失敗したときのリスクが大きい」といった現実があります。
かつては昇進こそがキャリアアップの象徴でしたが、現在では専門職として活躍し続けたいと考える人も増えています。独立も1つの選択肢でしょう。特に若い世代は、出世そのものよりも、自分らしい働き方やワークライフバランスを重視する傾向があります。そのため管理職の姿を見て「大変そう」「自分には無理そう」と感じるケースも少なくありません。
Smart相談室のユーザーを調査したところ、ワークエンゲージメントの平均値がもっとも低かったのは中間管理職層でした。そこに谷があります。この結果は、中間管理職が置かれている特殊な立場を象徴しています。
中間管理職は、組織の方針を現場に伝える役割と、現場の声を経営陣に届ける役割の両方を担います。上からの要求と下からの期待の狭間で調整を続けるため、自分自身の裁量感や達成感を得にくい状況に陥りやすいのです。ですが、組織の中の連結ピンは、組織戦略上の要です。
近年は、コンプライアンス対応、人材育成、評価面談、メンタルヘルス対応など、本来業務以外の役割も増加していますが、仕事量が増えても権限は十分に与えられず、成果だけが求められる状況では、仕事への活力や熱意が低下するのも無理はありません。組織の中核を担う中間管理職のエンゲージメント低下は、組織全体の活力低下につながる重要なシグナルと言えるでしょう。
部下のマネジメント・ケアに悩んでいる
■管理職の39.5%が「若手社員のマネジメント」に悩んでいる
具体的に管理職が抱える悩みの中でもっとも多かったのが、「若手社員のマネジメント」です。カウンセラーアンケートによると39.5%の管理職が、若手社員のマネジメントに悩んでいます。働くことに対する価値観が多様化する中で、従来の指導方法が通用しにくくなっていることが影響していると思われます。
かつては「背中を見て覚える」「厳しく育てる」といった指導スタイルも一般的でした。しかし現在は、個々の価値観やキャリア観を尊重しながら育成することが求められています。少し厳しく指導しただけでハラスメントと受け取られることを恐れ、適切なフィードバックができない管理職も少なくありません。
また、若手社員側も「成長したい人」と「安定を重視する人」が混在しており、一律のマネジメントが難しくなっています。管理職は一人ひとりに合わせた関わり方を求められ、その負担は増す一方なのです。
■管理職の26.7%が「年上部下」に悩んでいる
管理職のマネジメントの課題には、年功序列が弱まり、成果や専門性を重視する組織が増えたことで、年上の部下を持つ管理職が増えたこともあります。カウンセラーアンケートによると26.7%の管理職が、「年上部下」に悩んでいます。
年齢が上の部下に対しては、指導や注意をしづらいと感じる人が多くいます。特に経験年数が長い部下の場合、「自分より詳しいのではないか」「反発されるのではないか」という心理的な遠慮が生まれやすくなります。
一方で、年上部下側も複雑な感情を抱えることが、多々あります。自分より若い上司から評価されることへの抵抗感や、自尊心の揺らぎが生じることもあります。その結果、双方が遠慮し合い、必要なコミュニケーションが不足してしまうのです。
■管理職の32.6%が「部下のメンタルケア」に悩んでいる
近年、メンタルヘルスへの関心が高まっています。この流れの中で、管理職には部下のメンタルヘルスへの配慮が強く求められつつも、その役割に戸惑う管理職も少なくありません。
カウンセラーアンケートによると32.6%の管理職は、「部下のメンタルケア」に悩んでいることが分かりました。この悩みは、部下の不調に気づけないということではなく、不調のサインを見逃してはいけない一方で、どこまで踏み込んでよいのか分からない。相談に乗りたい気持ちはあっても、専門知識がないため適切な対応に自信が持てない。こうした悩みなのです。
特にメンタルヘルスの問題は外見からは判断しにくく、本人も自覚していない場合があります。管理職は業務管理だけでなく、表情や言動の変化にも注意を払いながらチームを見守らなければなりません。本来、メンタルケアは管理職1人で担うべきものではありません。産業保健スタッフや外部相談窓口などの支援体制を整え、組織全体で支える仕組みづくりが必要でしょう。
「マイクロマネジメント」の背景には管理職の不安がある
カウンセラーアンケートによると20.8%の働く人が、「上司のマイクロマネジメント」に悩んでいます。マイクロマネジメントとは、上司が部下の「仕事の進め方」や「具体的な行動」まで細かく管理・監督するマネジメント手法です。
進捗確認や指示が頻繁になり、部下の裁量や自主性が失われやすくなります。その結果、自律性やモチベーションが低下し、挑戦や創意工夫が生まれにくくなることが指摘されています。一方で、経験の浅い社員への教育や、高い正確性が求められる業務では一定の効果を発揮する場合もあります。
管理職がマイクロマネジメントに陥る背景には、失敗の責任を最終的に管理職が負うという構造があります。特に、1つのミスが大きな損失につながるようなケースでは、管理職は不安を感じやすくなり、その不安こそが過剰な管理を引き起こす要因となっています。管理職の不安がマネジメントスタイルに表れているのです。
■管理職の39.8%が「管理職負荷」を強く感じている
こういった状況を加味すると、カウンセラーアンケートにおいて、管理職の39.8%がマネジメントに強い負荷を感じているという結果も納得できます。現在の組織運営の中で、中間管理職に多くを求めるのには限界がきていることを示しているようにも思います。
多くの管理職は、プレイヤーとして成果を出しながら、部下育成、評価、人材配置、会議運営、コンプライアンス対応まで担っています。役割は増え続けていますが、人員や時間は十分に増えていません。さらに、管理職は孤独な立場でもあります。部下には弱音を見せにくく、上司には成果を求められるため、自分自身の悩みを相談できる相手が少ないのです。その結果、疲労やストレスを抱え込み、バーンアウトに陥ることもあります。
組織が持続的に成長するためには、管理職の負担軽減を個人の努力に任せてはいけません。業務の見直しや権限委譲、相談体制の整備などを通じて、管理職を支える仕組みを構築することが求められています。管理職が元気でなければ、組織もまた元気ではいられないのです。