部下を追い詰めてしまうのはなぜ? 言葉を変える前にすべき「自己理解」
2026年07月09日 公開
「言いたいことが伝わらない」「なぜか人間関係がうまくいかない」——そう感じたとき、話し方の本を手に取る人は多いでしょう。論理的な伝え方、印象のいい聞き方、場を和ませる一言......。でも、話し方を変えれば問題が解決すると思っているなら、それは少し違うかもしれません。
韓国で多くの人の「言葉の悩み」に向き合ってきたコーチング心理学者キム・ユンナは、まず「話し方」ではなく「自分自身」への問いを投げかけます。部下に必要以上に腹を立ててしまう人、なぜか人と親しくなれない人、会議で自分の考えをうまく伝えられない人——その言葉の奥には、本人も気づいていない心理的な根源が潜んでいました。
スキルだけで満たされたことばの器は、いずれ割れてしまう。本記事では、言葉を本当に変えるために必要なこととは何かを探ります。
※本稿は、キム・ユンナ(著),簗田順子(翻訳)『余裕があるほど心が満たされることばの器』(ディスヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
心理的な根源に出会う
言葉を変化させたいという人に会うたび、私は必ずこう尋ねます。
「どんなふうに言葉を変えたいですか?その理由は何ですか?」
「あなたの言葉は誰の口調に似ていますか?どうしてそう思うのですか?」
「あなたの言葉に影響を与えた出来事はありますか?それは何ですか?」
「あなたがよく使う言葉の中で、最もあなたを表している言葉は何ですか?」
「どんな状況で(またはどんな人に)話してから後悔しますか?」
「あなたの話を邪魔しているものがあるとしたらそれは何でしょう?」
「他の人があなたの言葉から知ること(特徴)は何でしょう?」
「あなたの言葉は相手に何を残すと思いますか?」
「あなたが言葉を通して表現したい(または隠したい)ことは何でしょう?」
「今まで言葉(人間関係)を変えるために努力したことは何でしょう?」
するとたいていの人は「上手な話し方を習いに来たのに、何でそんなこと訊くんだ」と思っているのでしょうが、ぼそぼそと話し始めます。不思議なことに、言葉について話していると、その人の過去と現在、未来への考え方まで、ぞろぞろとあふれ出てくるのです。
隠していた家庭のこと、打ち明けられなかった職場のトラブル、友だちとの不和や恋人との修羅場など、自分を苦しめてきた状況が次々と出てきます。そうやって時間をかけて質問のやり取りをしていると、その人の言葉を動かしていた心理的な根源と出会うことになります。
まずは自分を理解する
私を訪ねてきた人の中に、能力不足の部下に必要以上に腹を立てている人がいました。彼は小さなミスでも部下を非難し、追い詰めていました。初めて私のところに来たとき、彼が学びたがっていたのは「人の話を我慢して聞くスキル」でした。でも、何度か話をやり取りするうちに、子どもの頃に満たされなかった彼の承認欲求を発見したのです。
平凡な子では愛されなかったので、親に愛され認められるために、必要以上に勉強にしがみついていた彼は、今でも心の傷に苦しんでいました。自分の能力に対する過度な自信と優越感は、実は内面に隠れている劣等感の別の姿だったのです。
とりあえず、その部分を掘り下げてみることにしました。「力と能力を見せなければ認めてもらえない」という思い込みについて、十分に話し合いました。その思い込みに自分は本当に満足していたのか、現在も満足しているのかよく考え、どう変えていけばいいのか話し合ったのです。
また、どんなときに感情を抑えられないのか、そのときに自分をなだめる方法はあるのか、それはどんなものなのかについて意見を聞きました。そのように自分を理解する過程を経てようやく、他の人の考えを聞き尊重する会話のスキルを学ぶことができたのです。
他の人となかなか親しくなれなくて訪ねてきた人もいました。格式張りすぎた態度、距離を感じさせる話し方のせいで、周りから敬遠されているようなので、親密になれる話し方を学びたいというのです。
でも、内面を見つめる作業で発見したのは、彼自身が親しい関係を不快に感じているという事実でした。ケチで冷たかった両親、寂しかった幼年期、ライバルだった兄との関係をひも解きながら、彼は自分の心の中に、拒絶への恐れが居座っていることに気づき始めたのです。傷つくのが怖くて、無意識に人と親密になることを避け、距離を置いていたということがわかりました。私たちは、まずそのことについて十分に話し合いました。そして、心の傷をコントロールできるようになってから、印象がよくなる会話のスキルを練習し始めたのです。
言葉のせいで困っている中間管理職に会ったこともあります。彼は上層部の指示を部下に正確に伝えられず、会議の場などでもリーダーらしくできていないのではないかと悩んでいました。実際に会話をしてみると、とても口数が多く、つじつまも合っていないようでした。「さっき何て言いましたっけ?」と訊き返し、質問とは違うとんちんかんなことを答え、失言もたびたびあるのです。とりあえず、彼が「問題」だと判断したことを直す前に、そうするしかなかった事情を考えることにしました。
彼は他の人の顔色を必要以上にうかがっていました。「こう言ったらどう思われるだろう」「どうすればいい印象を持ってもらえるだろう」などと考えるあまり、会話が途切れると不安になり、その空白を埋めるために中身のないことを話していたのです。
自分に集中できないから、考えをきちんと整理して信念を持って話すことができません。そこでまず「人気のある人になるべきだ」という彼の考えや自尊心について話し合いました。成果を高めるコミュニケーション技法については、自分を省みることができるようになってから、ゆっくり練習することにしたのです。
ことばの器の亀裂を埋めるためには
言葉が退行した時点を観察すると、心に大小さまざまな亀裂が入っています。亀裂を撫でてやらなければ、不必要なところに力がかかります。大きな負荷がかかるのです。たわんだ状態が続くと痛みがひどくなり、「痛み」はねじれた形で表に出ます。曲がった心を反映して、言葉が不自然になるしかありません。
人は言葉自体を変えようとしますが、それよりも「こんなふうにしか話せない自分」を理解することが重要です。隠れている理由を探さなければ、やり直せるかどうか整理がつきません。言葉のスキルだけを学ぶことは、インスタント食品を調理して、これが手料理だと思っているようなものです。誰がやっても最短で同じ結果が出る検証された方法なので、味はまあまあでしょう。でも、それは料理の実力を育てるものではありません。
応急処置が必要な状況なら最適な処方になるでしょうが、スキルのみで満たされたことばの器は、いずれ割れてしまうものです。時間が経つほど本物かどうかが問題になります。言葉のスキルを身につけるには時間が必要なのです。その時間を短縮するには、話し方を学ぶ前に自分を知る時間を持つことです。
心理学者トニー・ハンフリーズは自著The Mature Manager(心理学で経営せよ)で、自分の内面を省察し管理することができなければ、尊敬される人にはなれないと語っています。「誰もが傷つくのを避けるため心理的な防御幕を張っています。でも、自分を知り、本当の自分に出会えれば、自分との関係がよくなるばかりでなく、他の人ともいい関係が築けるのです」と言っているのです。
自分を知ろうという意志がある人は、問題が起きたとき、視線を内面に向けます。自分の行動を顧みて、変わるために努力するのです。同様に、ことばの器の亀裂を埋めるためには、言葉の内面を観察する必要があります。言葉自体を観察する以前に、言葉の中にいる自分に出会わなければ、ことばの器は変化しないのです。