トヨタ式は、人間の知恵のうえに立つものだ。
「自働化」は、始祖・豊田佐吉氏の発明した自働織機が、糸が切れたら自動的に止まって不良品をつくらないように設計されていたことに起因している。
「ジャスト・イン・タイム」は、創業者・豊田喜一郎氏の考案によるもので、トヨタ式の「必要なモノを必要なときに必要なだけ」のことである。
そして何より大切なのが、「人間の知恵のうえに立つ」である。トヨタ式というと、「かんばん」をはじめとするさまざまな手段が有名だが、そのすべては人間の知恵を引き出すためのものであり、人間の知恵によって改善されていくと考えるところにトヨタ式の大きな特徴がある。
それほどにトヨタ式は「人間の知恵」を信頼している。
難題に直面してすぐに「できません」といった課長に大野耐一氏はこう激怒した。
「お前には多くの部下がいる。人間は真剣になれば、どれくらい知恵が出るかわからん。なのに部下たちの知恵をまったく無視して、『できません』とは何事だ!」
知恵はみんなに平等にある。上司の役目は部下に難しい課題を与え、困った状態をつくり出して、部下がもてる知恵を引き出すことにある。
まずは部下の知恵を信じろ、部下の無限の知恵を信じろという考え方であり、人間の無限の知恵を引き出せば「できない」ことも「できる」ようになるというのがトヨタの考え方である。
平均でものを語るな。
1970年代半ば、イトーヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊氏がトヨタ式に興味をもち、大野耐一氏を訪ねた。在庫を減らしたいのだが、その過程で機会損失が発生することも多く、どうすれば適正な在庫を抱えられるかについて相談するためだった。
伊藤氏は商売上「3カ月くらいの在庫」が適当と考えていた。それに対して、大野氏は次のようにアドバイスした。「在庫3カ月」といっても、それはあくまでも全体の「平均値」であり、現実にはよく売れる品物の在庫は限りなくゼロに近く、売れない品物は何カ月も埃をかぶっている。
正しい在庫管理には「平均値」ではなく、一品一品の適正在庫をチェックする必要があるのではないか、というものだった。
トヨタの車が世界でどれだけ売れているかを語るとき、世界シェアだけを見ても意味がない。たしかに販売台数では世界第1位だが、国別、地域別に見ていけば日本のように圧倒的に強い国もあれば、新興国などまだまだ微々たる数字の国も少なくない。
個々の数字を丹念に見ることで、はじめて本当の意味で世界中の人に愛され親しまれるレベルに到達することができる。
平均値にも意味はある。しかし、現実のビジネスは1つ1つの積み重ねだ。そのことを忘れて足し算や平均値だけで、すべてがわかったつもりになってはいけないのである。