インフルエンザにかかりやすい人、かかりにくい人
2013年10月04日 公開 2024年12月16日 更新
発症すると高熱に襲われ全身はだるく、回復までに1週間ほどを要する。しかも、感染力が強く、周囲に広まりやすい、やっかいな病気だ。
ところが、「今までかかったことがない」という人もいる。一方で、毎年のようにかかる人もいる。その違いは何なのか?
とっておくべき対策とあわせて、感染症の専門家・岡部信彦氏にお聞きした。(取材・構成:西澤まどか/写真:まるやゆういち)
※本稿は月刊誌『THE21』2013年10月号より一部抜粋・編集したものです。
かかったことがなくても安心してはいけない
日本では、毎年、数百万~千数百万人がインフルエンザにかかっています。誰もが典型的な症状が出るわけではなく、風邪かインフルエンザかはっきりわからないまま治っている人も多数います。
インフルエンザにかかりやすいのは子供たちです。インフルエンザに感染した経験が少なく、免疫がないか低いため、多くの子供がインフルエンザを発症します。また、お年寄りは、インフルエンザにはとくに注意しなければなりません。
それまでの経験から免疫があることが多いので、インフルエンザを発症する人がそれほど多いわけではないのですが、いったん発症してしまうと、体力の衰えや持病から、急速に悪化しやすいという特徴があります。
糖尿病や喘息などの慢性疾患を抱え、そのコントロールがうまくいっていない場合も、肺炎などの合併症を起こしやすく、重症化の危険性が高くなります。
こうした人たちに比べると、20~40代の働き盛りの世代で健康な人は、免疫も体力もあるので感染しにくく、また、いったん発症しても重症化しにくいと言えます。
高熱が出たとしても、たいていの場合は、数日間も寝ていれば自然に治ります。とはいえ、寝ていなければならないというのは、忙しいこの世代の人たちにとって難しいことでしょうから、予防しておくに越したことはないでしょう。
もともとインフルエンザにかかりやすい人とかかりにくい人がいるのは事実ですが、その違いがどこにあるのかは、まだよくわかっていません。しかし、「これまでに一度もインフルエンザにかかったことがないから、これからもかからない」とは言えないと思います。自分の体力や免疫力、そしてウイルスが、変化することはあるからです。
インフルエンザウイルスは、毎年のように細かな遺伝子の変化を起こすので、前の年とは似て非なるウイルスが流行します。さらに、十~数十年に1度のサイクルで、大きなウイルスの変化が起こることがあります。自動車にたとえればフルモデルチェンジです。
小さな変化であれば、それまでに類似のタイプに感染した経験からできた免疫で対応して、軽く済んでしまうこともあります。
しかし、フルモデルチェンジの場合、誰もが免疫を持っていないタイプのため、多くの人がかかり、重症者の数も増えることになります。今まで一度もインフルエンザを発症したことのない人でも、フルモデルチェンジしたインフルエンザには感染し、発症するかもしれません。
最も科学的な予防法はワクチンの接種
現在、科学的に最も有効なインフルエンザの予防法は、ワクチンの接種です。ただし、残念ながら、他の病気のワクチンよりは効果が低い。たとえば、この夏に流行した風疹のワクチンは、接種を受けた人ほぼすべてに効果があります。しかし、インフルエンザワクチンの効果は、ざっと見て3分の2程度でしょう。
インフルエンザワクチンは、ウイルスの変化に対応するため、毎年新たなものが製造されます。インフルエンザの流行期からその終わり頃にかけて、どのようなウイルスの変化があるかを調べ、そこから翌シーズンの流行の中心になりそうなウイルスを選び出し、ワクチンを作り始めます。
製造を始めてから広く接種できるようになるまでに約6カ月かかります。多くの場合は製造したワクチンと流行の中心となるウイルスが一致して効果が発揮されますが、一致度が低いと、それだけワクチンの効果が低くなってしまいます。
ワクチン接種後に免疫が十分高まるには、人によって差がありますが、2~4週間が必要とされています。そのため、流行に入る前に接種をしておくことが、より効果的です。流行に入ってからでは抗体の産生が間に合わず、インフルエンザにかかってしまうことがあります。
副反応について心配される方もいると思います。かつてのインフルエンザワクチンは、接種後の発熱率が高かったのですが、脂質成分を取り除くことによって、現在のワクチンの発熱率は低くなっています。
ただし、そのぶん、免疫を産生する成分も落ちてしまうので、効果が低くなるという現象もあります。放置しても下がる発熱や接種した部位の腫れなどは10%前後、入院を要するような重い副反応は100万人に1人程度と言われています。
体調がすぐれないときなどは接種を避けるべきですが、インフルエンザを発症するリスクと副反応のリスクとを比べて、また主治医の先生に相談するなどして、接種を受けるか受けないかの参考にすると良いでしょう。