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メタボ検診、大きなお世話――本当は「ちょいメタ」がいちばん長生き

帯津良一(帯津三敬病院理事長)

2013年10月07日 公開 2022年06月07日 更新

《PHP文庫『メタボ検診、大きなお世話』より》

 

 布袋さまの太鼓腹に象徴されるように、昔はおなかがふっくらしていることは健康長寿の証でした。

 ところが、いまは40歳を過ぎておなかをたるませていると、それだけで「病気予備軍」とみなされてしまいます。

 おなかのサイズのボーダーラインは、男性で85センチ、女性で90センチ。これを超えると、有無をいわさず、メタボリック・シンドロームの入り口である“肥満”と判定されてしまいます。

 加えて、2008年6月にスタートした「メタボ健診」では、その肥満の枠にひっかかった人の中からさらに、血圧の高い人や、コレステロールの高い人などを洗い出し、適宜、医療機関へ誘導していく、といった乱暴なことが行われています。

 病気の人も、病気になりそうな人も、早期発見・早期治療で重症化するのを防いでくださいね、というわけですが、

 「それは大きなお世話ですよ」

 と、私は事あるごとにいっています。

 数値だけを見て、流れ作業のようにメタボの烙印を押していくその様子は尋常ではありません。

 世間のメタボブームをうまく利用して、太っているのは悪いことだぞ、恥ずかしいことだぞ、とプレッシャーをかけ、一方で病気のハードルを下げながら、いたずらに健康不安を煽って、治療対象者を増やしているような気がしてならないのです。

 それによって得をするのは誰か――つい、そんなことも考えてしまいます。

 健康は数字で表すことはできません。やせていても病気を抱えている人はいますし、おなかがたるんでいても元気な人は元気です。腹囲85センチの人は病院へ送られて、84センチの人はお咎めなし、というのはどう考えてもおかしいでしょう。

 基準値だけを手がかりに、中高年者の健康を一律に判定しようというのは、とても危険なことです。

 そもそも、メタボの基準値は、不透明な部分が多いことを複数の研究者が指摘しています。誰がどうやって決めたのか、なぜその数値なのか、よくわかっていないことがたくさんあるのです。

 

 血圧が高くて、コレステロールが高くて、尿酸が高いというのは、元来、働きものの象徴でした。もちろん、高すぎるのはよくありませんが、ある程度それらの数値が高いほうが、元気に働くことができるのです。

 ところが、近年の健康政策のなかでは、いずれも健康の大敵として位置つけられています。メタボ健診でも同様です。

 まるで低ければ低いほどいいといわんばかりに、それらの基準値は上限だけが決められていて、下限の規定はありません。ちょっとでも基準値を超えると、徹底的に下げる治療が当たり前のように行われてきたのです。

 やっとここにきて、西洋医学に携わる人たちのあいだからも、基準値の矛盾、ひいてはその見直しを訴える声が出てきました。血圧や総コレステロール、中性脂肪、BMI(肥満度)はどれも、

 「少し高めのほうが長生きする」

 という報告が、複数の医療関係者から出ているのです。

 それらを総合すると、次のような数値の人が、それぞれ長生きの可能性の高いグループだったと報告されています。

 ・総コレステロール 240~250mg/dl
 ・最高血圧 140~160mmHg
 ・中性脂肪 150~200mg/dl
 ・BMI 25~29

 東海大学医学部の大櫛陽一氏は、著書 『メタボの罠』 (角川SSC新書)のなかで、こうしたちょっとメタボな人たちのことを “ちょいメタ” と呼び、ちょいメタ こそが長生きの条件としています。

 とすると、メタボ健診では、いちばん元気な “ちょいメタ” の人たちを、根こそぎ「病人」または「病人予備軍」に分類していることになります。

 そして、それらの人たちを医療機関へどんどん誘導し、投薬によってコレステロールや血圧を“基準値”まで下げていることを考えると背筋が寒くなります。

 病を未然に防ぐために医学が介入すると、益もありますが、それ以上に害があると考えたほうがいいのです。

 


<書籍紹介>

メタボ検診、大きなお世話

帯津良一 著
本体価格590円

「降圧剤は“達者でポックリ”の敵」「タバコも一日三本なら立派な養生」など、老いや病気と妥協しつつ、元気に生きるヒントが満載。

 

<著者紹介>

帯津良一
(おびつ・りょういち)

1936年生まれ。医学博士。帯津三敬病院名誉院長。帯津三敬塾クリニック主宰。日本ホリスティック医学協会会長。日本ホメオパシー医学会理事長。61年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科助手、都立駒込病院外科医長などを経て、82年埼玉県川越市に帯津三敬病院を開設。2000年には「楊名時太極拳 21世紀養生塾」を設立するなど、西洋医学に中国医学や代替療法を取り入れた統合医学という新機軸を基に、ホリスティック医学の確立を目指し、がん患者などの治療に当たっている。
主な著書に『達者でポックリ。』(東洋経済新報社)、『本望な逝きかた』(徳間書店)、『かかり続けてはいけない病院 助けてくれる病院』(講談社)、『「健康」に振りまわされない生き方』(青春出版社)など多数がある。

 

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