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知らないと怖い「糖尿病」の話…日本人が持つべき“危機感”

宮本正章(日本医科大学付属病院再生医療科教授/部長)

2012年09月28日 公開 2024年12月16日 更新

現在、日本において糖尿病が疑われる患者は約 2,210万人にのぼる。しかし、じつに多くの人が治療を受けないままに過ごしているのが現状だ。

日本医科大学付属病院で再生治療に取り組む宮本正章氏は、それに危機感を覚え、『知らないと怖い糖尿病の話』(PHP新書)を上梓した。数々の重度の糖尿病患者を診てきた宮本氏が、いま日本人に伝えたいこととは。

 

けっして油断できない病気

――本書では、糖尿病について詳細にお書きになっています。ご専門の再生医療と糖尿病は、どのように関係があるのでしょうか。

【宮本】われわれの専門は血管再生医療、つまり、失った血管を新しくつくることです。われわれのところに来られる患者の多くは、下肢の血管が詰まったことが原因で足に壊疽を起こしているのですが、その大半が、じつは糖尿病の患者さんでもあるのです。

――糖尿病の合併症には、下肢の壊疽があります。それですね。

【宮本】ええ。最悪の場合は、足の大切断も余儀なくされる。だから糖尿病は本当に怖い病気なのですが、それが世間ではあまり意識されていません。

たとえば、「がんの疑いがあります」といわれれば、みなさんすぐに病院に行くでしょう。しかし「糖尿病の可能性があります」といわれても、「ああ、そうですか」で終わってしまう。

――なぜ糖尿病は危機感を抱きにくいのでしょうか。

【宮本】私は糖尿病を「たとえば身体が砂糖水に漬かった異常な状態だ」といっていますが、だからといってすぐに病気が表われてくるわけではありません。

糖尿病は、脳梗塞や心筋梗塞、網膜症や腎症など、さまざまな合併症を引き起こします。先ほどいったように、下肢の血管が詰まり、傷口から細菌が入ると、足が腐ってしまう。早期対策が大切なのですが、しかし病院に来られたときにはだいぶ症状が進行している場合がほとんどです。

なぜなら、糖尿病で最初に起きるのは、末梢神経障害や自律神経障害といった神経障害だからです。要するに、人間にとって基本的な警告反応である「痛み」を取ってしまう。そのため、いきなり大きな症状が出てしまうのです。けっして油断していてはいけない病気です。

――宮本さんが所属されている「再生医療科」は聞き慣れない分野ですが、具体的にはどのようなことを行なっているのでしょうか。

【宮本】私はもともと、骨髄細胞による血管再生治療をやっていました。たとえば心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などというのはみな、大きな血管が詰まり、その先に血液が行かないことにより組織が壊疽に陥り引き起こされるものです。

脳の血管が詰まれば脳梗塞、心臓の冠動脈が詰まれば心筋梗塞、下肢の血管が詰まれば閉塞性動脈硬化症、と名前が違うだけで、血管や血液が足りないという意味では同じなのです。

従来は血管が詰まった場合、血管にカテーテル(中空の管)を入れる治療や、血管を拡げたり他の血管をつなぐバイパス手術が一般的だったのですが、それが技術的に難しい場合もかなりあります(とくに膝下病変)。

そのとき、第三の治寮法として10年ほど前から提唱したのが、失った血管をつくり直して血流を増やす血管再生治療です。

――血管は比較的、容易につくることができるものなのですか。

【宮本】血管を抑制することに比べれば、つくるほうが簡単ですよ。ただ、私が日本医科大学の臨床に来た当初は、血管をつくればそれで大丈夫だと思っていたのですが、話はそれほど簡単ではなかった。

われわれの真の目標は、「他院で大切断と診断されたり、治療法がないと診断された患者さんが自分の足で歩いて帰ることができる」ことです。

そこで、壊疽を起こしていた患者さんの下肢の血管を再生したとしても、そこから歩行可能になるまでには、じつに多くの段階を経なければならないことがわかったのです。血管再生の次は感染制御その次は組織再生、次は創傷治癒……といった具合に。

――それを1つずつ手探りで確立していかなければならなかった?

【宮本】ただ、われわれの目標が「患者さん自身の足で歩いて帰る」と明確だったので、逆に何をすべきかが自然とみえてきた面もあります。自分の足で歩くために必要なことは何か、そのために必要なことは何か……とね。

――この治療にあたり、とくに困難な点は何でしょうか。

【宮本】われわれのところに来る患者さんは、足だけが悪いわけではありません。全身に血管の病気を抱えるなかで、足にも症状があるわけです。だから、足だけを診ていてはいけません。

しかし現代医療は専門分野に細かく分かれすぎていて、専門疾患しか診ない傾向があるのです。そのため他の病気が見逃されてしまい、病状を悪化させてしまう人がとても多い。

――患者さんの身体をトータルで診ることが大切ということですね。

【宮本】ええ。現代においてそれができる先生は、案外少ないのです。その点、日本医科大学第一内科は、昔から医師は「患者を全人的にみる」ことを教育方針にしています。

ですから、いま第一内科は、循環器内科、再生医療科、一般内科、肝臓内科、集中治療室の5つがあり、それぞれ専門医がいます。たとえば循環器内科の医師が肝臓がんの患者さんを診療したり、多彩な疾患に対応しています。

――分野を越えた連携や情報の共有も非常に重要になってきますね。

【宮本】おっしゃるとおりです。患者さんの症状によっては、形成外科や整形外科、また心臓血管外科の先生方の力が必要となりますから。

加えて重要となるのが、責任の所在です。われわれが扱っている分野は、もともとある専門分野の狭間にある疾患です。

たとえば糖尿病で考えると、糖尿病自体は、糖尿病代謝内科、糖尿病腎症は腎臓内科、心臓が悪い方は循環器内科、足の腐敗は形成外科や整形外科と、患者さんにしてみたら多くの分野の先生にかかっていて、いったい誰が本当の主治医なのかがわからなくなることがあります。

われわれは「シームレス治療」(複数のサービスを違和感なく統合して利用できること)を行なっていて、ほかの専門医に協力を仰ぐのだけれども、少なくとも私が最終責任者として、最後の最後まで診ることを心掛けています。そうすることで患者さんからの信頼も生まれ、より安心して継続した治療をしていただけるのです。

 

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