マネ『鉄道』【和田彩花の「乙女の絵画案内」】
2013年10月11日 公開 2015年04月24日 更新
パリの日常に想いを馳せて
私の故郷である群馬と、仕事をする東京の心理的な分岐点、それは東京駅。東京駅に着いたとき、東京駅を出るとき、私のなかでは、うまく言い表せないですが、ちょっとした心の切り替えがあります。
ですから、プライベートで京都に仏像を観にいくために東京駅に行っても、なんだか大阪にライブに行くような気分になるんです。
駅はとても不思議な存在。だからなんでしょうか、絵にもたくさん描かれてきたのは。人生の縮図のような場所、といったら大げさかな。
そんなふうに考えていくと、さてさて、あの女の子は駅に向かって何を見ているのでしょう。とても気になってきます。
見ているのではなく、だれかを待っているのかもしれませんね。もしかしたら、お父さん? この絵では見えていない右手に、お父さんへのプレゼントをもっていたりするのでしょうか。きれいな花とか。もしかして、自分で描いたお父さんの絵?
遠くで働いていたお父さんがパリに戻ってくる日なのかもしれません。仕事で家を空けがちなお父さん。お母さんが抱えているのは本と仔犬という、あくまでも日常の光景が、そんなことを私に連想させます。よくある日常のワンシーンなんだよ、と。
それとも、そんな私の想像なんてぜんぜん関係なくて、この女の子は大の鉄道ファンなだけなのかな。あまり女の子がいつまでも鉄道に夢中になっているので、お母さんは少し疲れてしまって、仔犬といっしょに眠ってしまっているだけなのかもしれませんね。
こんな具合に、絵というのはじっくり観ていると、想像はふくらむばかりなんです。
スマイレージとしてはじめてフワフワのスカートを穿いたとき、とてもウキウキした気分になったのを覚えています。女の子というのは、フワフワした服を着て、ウキウキした気分になりたい生き物なんです! 大なり小なり、みんなそうだと思いますよ。
私の祖母はお裁縫が得意で、ピアノの発表会のような晴れの舞台で着るためのドレスも手づくりしてくれました。私がこんなドレスを着てみたいと絵本をもっていくと、さっそくつくってくれるのです。
浴衣までつくってくれて、それを着て夏祭りに行ったりもしましたね。
この女の子が着ている服も、きっとハンドメイドだと思いますが、どんな生地なんでしょうか。フェルメールの絵のような質感がありませんので、くわしくはわかりませんが、このジャンパースカートの感じがとても好きです。
質感がなくても、ササッと一瞬で描いたかのようなマネの絵筆のタッチが、見ていて気持ちいい。マネの描いた筆使いの跡が、私の気持ちまで心地よくさせてくれます。
絵全体から感じとれる心地よさが『鉄道』の魅力。それは、マネの筆使いによるところが大きいのだと思います。
サン・ラザール駅というテーマを借りて、マネは、パリの日常を心地よく見せたかったのでしょうね。
「色」の発見!
黒を黒として、しっかりと絵のなかに描き出したマネ。彼を尊敬し、集まってきた印象派の画家たちは、その後、自分の絵のなかに明るい色をもちこんでいくようになります。
現代のパリでのロリータファッションの流行も、黒を基調としたゴスロリファッションが最初で、それから、パステルカラーいっぱいのスイートロリータに移っていったと聞きました。
黒を描いたマネから、キャンバスに大量の明るい色をもちこんだ印象派の画家たちへ。
ゴスロリファッションからスイートロリータへ。
私自身も幼いころ、黒ばかり着ていた時期がありました。ドクロとかがモチーフとして描かれているような服です。それが、いつのまにか明るい服を選んで着るようになっていったのです。
マネがきっかけで好きになって本格的に絵画鑑賞にのめりこんだ私ですが、印象派の絵は最初、ぜんぜん響きませんでした。絵の明るさが苦手で、好きになる画家はレンブラントとかフェルメールといった画家ばかり。
でも、絵画を観つづけているうちに、印象派の絵も大好きになりました。私も印象派の画家たちと同じように、絵のなかに「色」を見つけることができるようになったのでしょう。
マネに出会って絵画鑑賞に夢中になるまで、そこまで好きになれるものは、私のなかにありませんでした。絵を観るたびに新しい発見があって、ますます絵を観ることが好きになっていく。一生かけても、世の中に存在するすべての絵を観ることはできないのですから、私の楽しみはいつまでも尽きませんね。
マネが、私に一生の宝物をプレゼントしてくれたようなものなのです。
<著者紹介>
1994年8月1日生/A型/群馬県出身
ハロー!プロジェクトのグループ「スマイレージ」のリーダー。
2009年、スマイレージの結成メンバーに選ばれ、2010年5月『夢見る 15歳』でメジャーデビュー。同年の「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。近年では、SATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット「ピーベリー」としても活動中。高校1年生のころから西洋絵画に興味をもちはじめ、その後、専門的にも学んでいる。