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生き方

常識より非常識を探す…ものづくりの現場で生まれた「名言」

桑原晃弥(コンサルタント/執筆家)

2011年03月17日 公開 2022年08月17日 更新

※本稿は、桑原晃弥 著『ものづくり現場の名語録』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

北陸の住宅機器メーカーでみた「日本の底力」

「ネジを留める作業は立ち止まってやるより、ゆっくり歩きながらやるほうが疲れないし、効率もいいんです」「この機械も、あの機械も、父親の代から使っています。長く稼いでくれるもんでしょう?」

今から10年ほど前、北陸の社員70人あまりの住宅機器メーカーで、同社の社長から聞いた言葉だ。

それまで取材してきたトヨタやトヨタグループの工場に比べれば規模が小さく、正直あまり期待はしていなかったのだ。だが、話を聞き、現場を見るにつけ、それまでわからなかったことの多くがはっきりとわかるようになった。

最新鋭の機械はなかった。使っているのは、やや古びた機械設備や、自分たちで開発したコンピュータソフトだった。エリート職人も見あたらない。働いているのは地元の若者や主婦たちだった。

ところが、やっていることはすごい。かつて40日だったリードタイム(作業の着手から終了までの時間)を、わずか2時間に短縮していた。単純計算だと0.2%にまで減らしたことになる。

午前中に注文を受ければ午後には出荷できる、ほとんど在庫なしの一個流しという理想的な生産を、ごく普通に実現していた。その住宅機器メーカーに案内してくれたのは、トヨタ生産方式を自動車産業以外に普及させていたカルマン社長・若松義人氏だ。

私は、同氏の出版活動の協力者としてトヨタ生産方式を取材していた。その中で「にんべんのついた自働化」とか「機械に人間の知恵をつける」「知恵の数だけ競争に勝てる」といったものづくりの要諦を徐々に理解していたが、それはあくまで「トヨタのもの」だと考えていた。分野の異なる会社や中小企業については思い及ばなかった。

その理解が一挙に進んだのだ。「ものづくりは、単に機械設備を入れ、人を雇い、材料を投入すればいいというものではない。働く人たちがどれだけ知恵を出すか、心を合わせるか、情熱を燃やすかで、質も量もまるで違ってくる。ものづくりとは、それほど人間的なのだ。また人間の力量が試される」と何人もの経営者や職人に聞いた通りだった。

不況期に伸びる会社があり、好況期に潰れる会社がある。その差は、知恵と調和と熱さの差なのだ。

それまで金融システムやビジネスモデルなどにばかり目が行っていたが、以来、私はものづくりの世界に深く関わるようになった。今、日本は元気がない。生きづらい。先が見えない。ものづくりの現場も、常に沸騰するような熱気があるわけではない。

しかし、そんな時代にも知恵は出続け、新しい夢が育っている。安い海外製品や、マネーゲームに負けないものづくりが進んでいる。そこには必ず人間ドラマもあって、知るほどに元気をもらえるのである。

だから、ものづくりの現場で生まれた言葉を集めてみたいと思ったのは自然だった。当初構想していた取材で出会った言葉集ではなく、書籍や雑誌からの言葉にはなったけれど、力のある、いい言葉が集まった。

ものづくりとはあまり縁のない会社員や学生に、むしろすすめたい。生きるヒントになったり、勇気をもらったり、感動したり、共感したりするうちに、いつしか気持ちがすっきり晴れているに違いない。

それはたぶん、日本の底力がまだまだ健全だからだと思う。マイナスの面は確かに多いが、その足元を静かに見ると、あざやかな緑色の芽がプラスの方向を目ざして伸びている。そのことに気づくはずだ。

以下、書籍に紹介した158の言葉の中から2個を紹介する。

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ものづくりの現場で生まれた言葉

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