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渋沢栄一「士魂商才」~ビジネスリーダーにかみしめてほしい名言・金言

『渋沢栄一 現代ビジネスに活かす言葉』PHP研究所編より

2018年07月27日 公開 2022年02月04日 更新


 

渋沢栄一(しぶさわ えいいち)
1840年(天保11)、埼玉生まれ。明冶・大正期の指導的実業家。一橋家に仕え、1867年(慶応3)パリ万国博覧会に徳川昭武の随行として渡欧、欧州の産業、制度を見聞した。1869年(明治2)、新政府に参画、大蔵大丞を歴任後退官して実業界に入る。第一国立銀行頭取の他、王子製紙、大阪紡績、東京瓦斯など多くの近代的企業の創立と発展に尽力した。『論語』に精通し「道徳経済合一説」を唱えた。1931年(昭和6)没。

 

士魂商才

昔、菅原道真は「和魂漢才」と言った。これは、日本人たるもの大和魂を根底としなければならないが、中国は歴史も長いし文化も早く開けて孔子や孟子といった聖人や賢者も輩出しているから、才能を養うためにはお手本にすべきだ、という意味である。

それに対し、私は「士魂商才」という言葉を提唱している。人が生きていくうえで士魂(武士のような崇高な精神)が必要なのは言うまでもないが、それだけでは生活できない。つまり、自立するためには士魂とともに商才も必要ということだ。

ところで、書物を読んで士魂を身につけようとする場合、最もためになるのは『論語』だと思う。『論語』なら、商才を身につけることもできるからだ。

『論語』は道徳を扱った書物である。道徳と商才には何の関係もないように思えるが、商才もまた道徳を根底としている才能である。それは、嘘や不道徳、不誠実、他人をだまして得た商いは長続きしないのをみてもあきらかである。

世の中を上手に渡っていくのは難しいが、『論語』をよく読み内容を理解すれば、きっと役に立つはずである。
 

自分の主張を変えるときは熟慮せよ

固く決心したことが、ふとしたきっかけで心変わりしてしまう場合がある。他人から勧められて気が変わる場合もあるが、多くは自分の気の迷いから起こることで、意志が弱いとしか言いようがない。

自ら決心して覚悟していながら他人の言葉で気が変わるのは、意志の鍛錬ができていない証拠である。こうならないためには、普段の心がけが大切である。普段から心の中で「こうしよう」「こうしなければならない」とか、物事に対する的確な心構えがきまっていれば、どんなに他人が調子のよいことを言っても、その言葉にうかうかと乗せられはしない。

しかし、人の心というのは変わりやすく、普段は「こうあるべき」「こうすべき」と考えていても、成り行きが急に変わると自ら自分の心を誘惑して、まったく違う事をしてしまう場合がある。これも普段から意志を鍛錬していないために起きるのである。

修行を積み、意志を鍛錬したものでも惑わされるくらいだから、社会経験の少ない若者はくれぐれも注意を怠ってはならない。もし、普段の主張を変えなければならないようなことがあったら、再三再四熟慮した方がよい。
 

勇ましい心の養成法

正義を断行する勇気を養うためには、まず肉体の鍛錬をしなければならない。とくに、下腹部の鍛錬は身体に健康をもたらすと同時に精神も鍛えられ、勇ましい心が育まれる。

勇気を養うためには、自己をかえりみることも大切である。本を読んで、勇者たちの言動を模範にするのもいいだろうし、尊敬する目上の人に話を聞くのもいいだろう。こうして一歩一歩精神を鍛え、正義に関する考え方と自信を養っていけば、勇気は自ずと生じてくるはずである。

ただし、血気盛んな青年時代には勇気をはき違えて粗暴な行動に出やすいので注意が必要だ。品性のない行いは勇気ではなく、次第に卑しく凶暴になっていくだけで、やがては自分自身を滅ぼしてしまう。このような事が起きないよう、ふだんから精神を鍛錬しておかなければならない。

今日、我が国は先進諸国に努力して追いつき、追い越さなければならない状況にある。そのためには重大な覚悟を持ち、ためらわず前進する必要がある。それには心身を絶え間なく鍛え、元気よく活動しなければならない――私は若者たちにこう望んでやまない。

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