[映画「利休にたずねよ」特別インタビュー] 監督・田中光敏が語る熱い思い
2013年11月20日 公開 2015年04月24日 更新
流れるようなお点前
映画に息吹を吹き込んでくださるのは、何といっても俳優さんです。海老蔵さんは、クランクインの7カ月くらい前から、お点前の練習をしていたそうです。「歌舞伎役者がお茶の映画に出るには覚悟がいる。きれいに見えて当たり前。それ以上のものを見せなければいけないから」とおっしゃって。練習期間中は、家でも抹茶しか飲まなかったとか。何事もストイックに突き詰めていくピュアな方なんです。
利休の美意識、哲学をお客様に伝えるには、流れるようなお点前が必須であることを、海老蔵さん自身が以心伝心で感じ取ってくださっていたのです。
中谷美紀さんにも、この映画に対する格別の思い入れを感じました。中谷さんは若い頃からお茶を習っていらしたのですが、撮影前から幾度もお稽古を重ね、さらに海老蔵さんのお点前のビデオを、撮影期間中何度も観て、勉強していらっしゃいました。「旦那様の利休がどんなお点前をするのか、利休の癖が私にもないと、妻ではないから」とおっしゃっていたのが印象的です。中谷さんもまた、宗恩が利休の一番の理解者であることを、お点前で表現してくださいました。
武野紹鴎役の市川團十郎さんにいたっては、武野紹鴎に関する山のような資料を全部読んで撮影に臨まれました。歌舞伎の世界の方は演出もなさるので、ご意見もいただきましたが、常に、今回の映画の主演は息子で、自分は客人なんだというスタンスを忘れなかった。自分がこの映画に出ることによって、何かプラスになればいい、という、師匠として父としての思いがひしひしと伝わってきました。
俳優さんたちもさることながら、私にとって、時代劇本場の東映京都撮影所で撮影ができたこと、スタツフと本気で向き合えたことも非常に有難かったです。
映画を撮り終え、公開を待ついま、人間・利休をどこまで描き切れたかが気になります。セリフだけでなく、所作の1つ1つ、背景に凝らした工夫から、人間・利休の情熱から生まれた類まれな美意識、いまの時代に忘れられているもてなしの心を感じ取っていただければ幸いです。
<原作本紹介>
おのれの美学だけで秀吉に対峙し天下一の茶頭に昇り詰めた男・千利休。その艶やかな人生を生み出した恋とは。第140回直木賞受賞作。★電子版もあります★
<関連書籍>
「利休にたずねよ」の世界
13年12月公開の映画「利休にたずねよ」公式ガイドブック。当時の茶道具を使うなど細部にこだわった映像美と物語世界をやさしく解説。