なぜ、皮膚は掻けば掻くほど「無性に」かゆくなるのか?
2014年10月24日 公開 2024年12月16日 更新
「イッチ・スクラッチサイクル」はどこからでも回る
先ほどは、アレルギー反応が原因となってイッチ・スクラッチサイクルが回り始めるケースを説明したが、実はこのサイクルは、どこからでも回り得る。
たとえば、まったくかゆみを感じていなくても、皮膚を激しく掻いて傷をつけると、その傷を治癒しようとサイトカインが出て炎症が起こり、そこからかゆみが発生する。
また、ヤケドや怪我などをしても、サイトカインは放出され、炎症が起こり、かゆみが生じることがある。ただし、傷がひどい状態のときには、痛みのシグナル(信号)のほうが圧倒的に強いために、かゆみは感じにくくなっている。
しかし、傷が治りつつある段階で、痛みが治まってくると、かゆみも感じられるようになってきて、「痛がゆい」状態になる。そのときに掻いてしまえば、またサイトカインが放出され、炎症が起こり、せっかく治りかけていた皮膚をまた悪化させてしまうことになるのだ。
「イッチ・スクラッチサイクル」を止める方法
イッチ・スクラッチサイクルという負のスパイラルに取り込まれてしまっている患者さんを治療するには、何よりもまずこのサイクルを止める必要がある。
考え方としては簡単だ。サイクルのどこでもいいから、上図の矢印の部分を断ち切ることだ。
たとえば、これは極端な例だが、どんなにかゆくても掻けないように寝る前に手をベッドの柵に固定してしまったり、小さい子どもの場合ではミトンといって手を完全に覆った手袋がパジャマにくっついている衣類を着せて掻けないようにしたりする。これは「かゆみ」と「掻破」の間のつながりを断ち切ることになる。
現実に皮膚科でおこなう治療としては、患部に「亜鉛華軟膏(昔からある白いベタベタした膏薬)」という薬の塗られた布を貼ったり、「ステロイド含有テープ(ドレニゾン(R)テープ)」を貼ったりする。こうしてそれらの、薬効成分により皮膚の炎症を鎮めるほかに、患部を布やテープでカバーすることで、掻きたくても掻けない状態を人為的につくってしまうのだ。
もちろん、テープを貼らなくても塗り薬を塗るだけで十分かゆみが抑えられるような軽症の場合は、それだけでもこのサイクルを止めることはできる。
持続性の「かゆみ」が起こったときには、早めに皮膚科を受診し、このイッチ・スクラッチサイクルを早急に止めることが望ましい。特に、アトピーなどの慢性的な病気が背後にある場合や、原因がわからない湿疹などは、このサイクルに陥りやすいのだ。
また、虫刺されなどの原因がはっきりしているものであっても、不適切な治療をして掻き壊してばかりいれば症状が悪化してしまうことがある。まれに「1年前の虫に刺されたあとがずっとかゆい」という訴えで、皮膚科を受診する人も少なからずいる。
子どもに多いのだが、そういう場合は大抵、虫刺されのあとが掻き壊しによって固くなって隆起し、結節性痒疹という状態になっている。これもイッチ・スクラッチサイクルが回り続けてしまったことで起きた慢性皮膚炎の1つである。
「かゆいなら掻けばいい」と気にせずにいると、単純な疾患でもこのように悪化させてしまうことがあり、結果的に治癒が遷延する、ということがおわかりいただけただろうか。
もっとも、いくら早期に病院に行っても、担当医の腕次第では、このサイクルを止めるどころか、ステロイドを長期に処方されて、ちっとも治らないうえに本来必要のない副作用だけを被ることになった……などということもまれに起こり得るのだ。
本書では、かゆみを起こす種々の病気のメカニズムを取り上げ、それぞれの理に適った治療方法について説明したのでぜひ治療の参考にしてほしい。
<著者紹介>
菊池新(きくち・あらた)
皮膚科医、医学博士
1962年東京生まれ。1987年3月。慶應義塾大学医学部卒業。1995年7月、慶應義塾大学医学部皮膚科診療科医長・医局長・研修担当主任、1996年12月、慶應義塾学事振興基金(福澤基金)を得て、米国国立術生研究所(National Institute of Health〉へ留学。日本学術振興会海外特別研究員として。米国国立衛生研究所にて引き続き留学。1998年3月、留学を終え帰国。同年5月、菊池皮膚科医院開設。
著書に「アトピーはもう難病じゃない」『「アトピー」勝利の方程式』(以上、現代書林)、『そのアトピー、専門医が治してみせましょう』(文春文庫)、『Dr.菊池の金属アレルギー診察室』(東京堂出版)がある。