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社会

岡田斗司夫 今の若者が「大事なのはお金じゃない」と語る理由

岡田斗司夫(社会評論家)

2014年11月19日 公開 2023年01月12日 更新

「お金がない世界」の足音

贈与には「評価」がともないます。

知り合いの、そのまた知り合いにまでおいしい新米をタダで配っている農家でも、言い方を変えれば「贈りたい人にしか贈らない」はずです。

ぶっちゃけてしまえば、自分が好きな人、自分が高く評価している人に対して価値のあるものを贈り、それを相手に対する「貸し」としている。もちろん、そこまで意識的に損得勘定をはたらかせている人は少ないでしょうが、継続していると、そういった「自然な流れ」ができてきます。

何かを贈った相手には、透明な「貸し」が発生する。

貸しに対する「お返し」は、贈り主の心を和ませるような心のこもったお礼の手紙かもしれないし、次の刈り入れの手伝いというマンパワーかもしれません。または、お中元のお裾分けだとか、その家では使わないビール券かもしれません。

何をやりとりするかは人それぞれでしょうが、とにかく相手がお返しをまったくしない人だったら、無料の贈与はいずれおのずと集まらなくなるはずです。

かつての限定的な情報社会では、このようなやりとりは難しいものでした。だれにお米を渡したか、貸しがいくらか、どんなかたちで貸し借りをするのかを記録することや、意思を広く伝達すること、時間や距離を越えることなどは、手間がかかり困難だったからです。

返礼を催促すれば、がめついヤツと言われるかもしれない。

去年の「貸し」は年を越したら忘れたほうがいいのだろうか……。

このように、やりとりにともなう煩わしさがありました。

でも、ハイパー情報化社会の到来とともに、こうしたやりとりは、だれもがたやすく実現できるものになりました。お米があまっている人は、「お米を差し上げます」とSNSで呼びかけて、欲しい人はすぐに「譲ってください」と応えられる。

さらにそこから、「借りたら返そうよ」という透明な届け合いのサイクルが延々とつながっていく。

「お金を動かさずに経済をまわす」

こうしたサイクルが、評価経済の完成イメージです。

そうなると、評価経済が進んだらGDPが下がってしまうのでは?

僕も最初はそう考えていました。

でも、まったく逆だったんです。貨幣経済上のGDPはたしかに下がるでしょう。ところが、既存の経済思想では計測できない評価経済は上を向いている。

銀行からカネを借りる人が減ると、経済評論家たちは「不景気だ」と騒ぎ出す。

違うんです。銀行からカネを借りなくても、カネを介さない人手やモノの貸し借りが水面下で増えている。そこでは個人の評価が上下して、ちゃんと「経済活助」になっている。

貨幣経済は低迷しても、評価経済は活発に活動しているんです。

評価経済上のムーブメントは、数字やデータでは表現しにくいものです。ただ「見える化」しにくいだけで、実際には、多くの人がこれまでお金を払って得ていた情報を、たとえばツイッターやSNSでキャッチしている。

テレビを見たり、映画にお金を払うことが減って、YouTubeや二コニコ動画で番組や動画を楽しむ。こういった無料でのやりとりは。一見、経済にまったく寄与していないようにも見えますが、それは貨幣経済上の指数でしか計測していないからなんです。

無料で贈与します、無料で提供します、無料でお手伝いします――そう言える人は、いままで以上に尊敬を集めるようになりました。最近、バイトでお金を稼ぐよりも、ボランティアにやりがいを見出している学生はとても多いですよね。

僕たちは評価経済上の高度成長期という、ものすごくおもしろい時代に生きているんだけれども、古い価値観では、それが「経済上の成長」として計上されていないのです。

さあ、あなたには「お金がない世界」の足音が聞こえるでしょうか?

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単なる収入の格差にとどまらない「未来格差」

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