どんなに前向きな人でも、うまくいかないことが続くと、悲観的に捉えてしまったり、怒りの感情が沸いてしまったりしたことはないだろうか。
そんな思考の時は、「自分のパラダイムと他者のパラダイムは違う」という意識が抜け落ちていることが少なくないという。
「幸せで充実した人生を手に入れる」というゴールへ到達するために、どのような行動をとればいいのだろうか。
『7つの習慣』を愛読し、その考えを実践してきた元東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏に、パラダイムシフトを起こし人生を好転させるためのコツを解説する。
※本稿は、佐々木常夫著『実践 7つの習慣 何を学び、いかに生きるか』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。
人はみな「パラダイム」という眼鏡をかけている
『7つの習慣』の中に出てくる重要なキーワードの1つに、「パラダイム」という言葉があります。
パラダイムとは、平たく言えば物事の見方や認識の仕方のことです。パラダイムは人によって異なります。
コップの中に半分残っているジュースを見て、「もう半分しか残っていないのか」と思う人と、「まだ半分も残っているぞ」と思う人がいるのは、それぞれ異なるパラダイムを持っているからです。
言ってみれば私たちは、パラダイムという眼鏡をかけて生活しています。ジュースが入っているコップを見て、「もう半分しか残っていないのか」と思う人は悲観的なパラダイムという眼鏡をかけ、「まだ半分も残っているぞ」と思う人は楽観的なパラダイムという眼鏡をかけています。
ところが人は、自分が他人とは違うパラダイムの眼鏡をかけて世界を見ていることをほとんど意識していません。コヴィー博士も次のように述べています。
「誰しも、自分は物事をあるがままに、客観的に見ていると思いがちである。だが実際はそうではない。私たちは、世界をあるがままに見ているのではなく。私たちのあるがままの世界を見ているのであり、自分自身が条件づけされた状態で世界を見ているのである。何を見たか説明するとき、私たちが説明するのは、煎じ詰めれば自分自身のこと、自分のものの見方、自分のパラダイムなのである。」
コヴィー博士は、間違った地図を手にしても目的地にたどり着けないのと同じように、間違ったパラダイムのままでは、人はけっして成功を手に入れることはできないと言います。
組織のリーダーでいえば、部下を見るときに短所ばかりに目が向くリーダーと、部下の長所を見つけようとするリーダーがいるとします。前者のリーダーは「人の短所に目を向ける」というパラダイムの持ち主であり、後者のリーダーは「人の長所に目を向ける」というパラダイムの持ち主です。
どちらのリーダーが部下の能力を上手に引き出して成長を促すことができるかというと、断然、後者のリーダーです。
逆に前者のリーダーは、相手の長所ではなく短所ばかりを見てしまうために、部下の可能性を潰してしまうことになりかねません。パラダイムの違いが、結果の違いを招くわけです。
異なるパラダイムを理解し受け入れる
コヴィー博士が言うよりに、私たちは普段自分のパラダイムを意識できていません。「あなたのパラダイムはどんなものですか」と人から聞かれても返事に窮してしまうでしょう。
そこで大切になるのは、「自分もまた人とは異なる偏ったパラダイムを持っている」ということをまずは自覚することです。
そのうえで人と異なる判断を下すときの自分のモノの見方は偏りがなく、現実性のある妥当なものかどうかを、常に現実と擦り合わせながら検証してみる必要があります。
また自分と意見が合わない人がいるときに、相手のほうが間違っていると決めつけずに、その人の意見に耳を傾けてみることも大事です。すると徐々に自分のパラダイムを偏りのないものへと修正していくことが可能になります。
ちなみに私の場合はビジネスメールを送信するときには、仕事相手だけではなく、CC機能を使って必ず秘書にもメールを同報送信するようにしています。自分の考え方やメールの書き方が偏っているときに、秘書に指摘をしてもらうためです。
また東レ時代、会議で司会を務めるときには、まず自分の意見を言ったあとに、次に自分の意見に一番異論を持っていそうな人物を指名して意見を述べてもらりようにしていました。チームの中では自分がリーダーだったとしても、必ずしも正しいパラダイムを持っているとはかぎりません。
現実を間違って認識している可能性もあります。そこでまったく別の視点の持ち主の意見を聴くことで、認識の修正を図るわけです。事実、私は部下からの指摘で、物事の見方や考え方を改めさせられたことが何度もあります。
こんなふうに日々のちょっとした心がけで、自分の中にある「偏ったパラダイム」を「バランスのとれたパラダイム」へと修正していくことが可能になります。
また「自分のパラダイムと他者のパラダイムは違う」ことを自覚しておくと、自分の意見に反対意見を言う人が現れても、それほど腹が立たなくなります。
そしてその人の反対意見に対してだけではなく、なぜその人がそういう意見を述べているのか、相手がベースとして持っているパラダイムにまで意識が向かうようになります。
「この人はこういうパラダイムの持ち主だから、こんな意見を言っている」ということを理解できるようになるわけです。すると意見が対立したときでも、相手のパラダイムを受け入れたうえで、より良い解決案を探り出そうとするようになります。
コヴィー博士が挙げている「7つの習慣」のうち、第5の習慣は「まず理解に徹し、そして理解される」というものですが、相手を理解するためには、人はそれぞれ自分とは違うパラダイムを持っていることを受け入れることが大前提となります。