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なぜ中国はいつまでも近代国家になれないのか?

石平(評論家/拓殖大学客員教授)

2016年01月11日 公開 2023年01月11日 更新

日本で学んだ先覚者たちの業績と挫折

日本と比べて、中国の近代化が徹底的な遅れをとった最大の理由の一つは、やはりこの国の中華思想であつた。根強い中華思想があったからこそ、当時の中国のエリートたちは最後の最後まで西洋文明の導入を拒み続けた。そしてそれが結果的には中国自身の近代化を遅らせ、中国という国を西洋列強の「半植民地」にしてしまった。

もちろん、中国の「半植民地化」へのプロセスにおいて、一部の中国人の先覚者たちは徐々に中華思想の有害性に気がつき、この根強い伝統思想との格闘を続けていた。ある意味、アヘン戦争からの中国の近代史は、まさに中国人自身による、中華思想との格闘の歴史でもあった。しかし近代以来の歴史において、ほとんどの先覚者がその戦いに敗れてしまい、中華思想だけが古代から蘇った亡霊のように現在に至るまで生き続けている。

中華思想と果敢に戦った中国人の先覚者たちの生涯を見ていて、一つの重大な事実に気がついた。彼らの多くは実は、明治時代の日本と深い関わりをもった人たちであった。彼らの中には、日本に亡命して長く滞在した人もいれば、日本に留学して近代文明に目覚めた者もいた。

そして彼らの中の優れた者たちは、まさに日本で学んだ「近代」をモデルにして、あるいは近代化に成功した日本そのものを手本にして、祖国の中国の近代化を進めようとしていた。

その中には、日本で学んだ近代思想を基本理念にして中国人の啓蒙を図ろうとする先覚的な思想家もいれば、日本の明治維新に鼓舞されて中国の近代革命を成し遂げようとする熱血の若き革命家もいた。そして、日本の政治制度や武士道精神を見本にして近代中国の国家システムと国民精神を築き上げようとする政治的指導者も現れた。あるいは、日本で学んだ近代学問の理念と方法論に基づいて中国の古い学問の改造を行い、「新学問」の天地を開いたような優れた学者もいたし、日本で培った文学的感覚を武器にして、文学という手段で中国国民の精神的改造を試みた天才的な小説家もいた。

このようにして、近代になってから、日本という国と縁を持った多くの中国人のエリートたちは、まさにこの日本から「近代」というものを中国に「輸入」することによって、あらゆる方面における祖国の近代国家建設に尽力していた。彼らの努力は当然、中国の近代化を進展させるのに大いに役に立ち、中国は一時、随分前進した。

しかし最後のところ、彼らの努力はやはり失敗に終わった。前述のように、中国の近代化は結局1949年の共産党政権の成立をもって頓挫してしまい、中国という国は一夜にして、清王朝崩壊以前の前近代的独裁国家に戻った。そして今日に至っても、中国の国家体制と支配的イデオロギーはまさに「前近代」のままである。

その中で、中国の近代化の先駆者となった彼らにも、さまざまな人生のドラマが繰り広げられた。その中には、志半ばで倒れた人もいれば、国のために殉じた後に「売国奴」との汚名を着せられて歴史から葬り去られた人もいた。あるいは、近代国家建設の途中で中国から追い出された政治的指導者がいたし、共産党政権に魂を売って曲学阿世の徒となったような大学者もいた。彼らの壮絶な人生がたどり着いた不本意な結末には、近代国家になり損なった中国そのものの悲劇があった。

日本から「近代」を学んで中国に移植しようとした先駆者たちは、いったいどのようにして中国の近代化に貢献し、そして彼らの努力がいったいどうして失敗に終わったのか。ある意味では、彼らの個人史は、すなわち中国における近代国家建設の前進と失敗の歴史そのものであるから、彼らの業績と行いを調べて探究してみれば、この国における「近代化問題」のすべてがわかってくるような気がする。

また、日本と深い関わりを持った彼らの成功と失敗を吟味していけば、明治以来の日本と中国との関係、あるいは日本という国と中国の近代化との関係性もわかってくるのであろう。そして、「日本が近代化に成功して近代を超克できたのに、どうして中国は失敗に終わったのか」というわれわれが疑問に抱く最大の問題もまた、それによって解明されていくのではないか。

本書は、このような中国の近代史にかんする「謎解き」を意図とするものである。中国の近代史において日本と深い関わりを持った八人の歴史人物を選び出して、彼らの奮闘と彼らの業績と彼らの失敗を概観することによって、「近代化」という歴史的課題に直面した中国の成功と挫折を見ていきたい。

そこにはいったい、どのような人間ドラマと民族盛衰の歴史が展開されていくのだろうか。

著者紹介

石 平(せき・へい)

評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。1988年来日、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。著書『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)が第23回山本七平賞を受賞。

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