グーグルの人材育成と活用~自由だからこそ問われる価値観の共有
2011年09月29日 公開 2024年12月16日 更新
『PHP Business Review 松下幸之助塾』2011年9・10月号より
理念の前に価値観を共有できるか
自由な社風だからこそ、グーグルにおいては入社時に価値観を共有できるかが問われている。そのあたりを、グーグル広報部の河野あや子氏と若手エンジニア末松宏一氏に伺ってみた。
-理念を共有する過程とは、たとえば普通の会社ですと、OJTのほか研修教育の場を利用していますが、入社のときに特別な教育などはあるのですか。
河野:非常に基本的なところでは、採覚を大事にしようということです。つまるところは面接試験において、そういう感覚が分かるようなアプローチをしろと言われています。話が合って同じ目的を共有できるかというところは、入った時点でそこは最低限共有しているという入り方をさせるわけです。
― グーグルらしさというのは結構意識されるのですか。
― 自由な気風はいいのですが、その場合、才能さえあればいいという考え方になれば、モラルの問題は生じませんか。
河野:当然これだけ自由ですので、自由をはき違えない人たちでないと始まらないと思います。自分たちに与えられている自由をきちんと理解して使える、それをうまく利用できるというところが前提としてあるというかたちですね。
末松:何か問題があれば、だれが相手でも気兼ねせず、これはよくないとちゃんと言えるような社風はあります。
河野:私どもの場合、お客様の前に出ていくのは営業マンという「人」よりもまず、「製品」です。そしてその製品がよければサポートされるというのが基本です。ですから、結局どれだけよい製品を出せるかが問われるのです。服は自由なほうがいいだろうとか、遊び場を社内のレイアウトに入れていこうというところからアプローチしていくのは、結局私どもがどれだけいい製品を出せるかということに落とし込まれていくのです。そのために理念というより社風の共有が重要だということになるのでしょう。
グーグルならではの採用面接のポイント
採用面接はどんな会社でも行なっている。ただ、グーグルにおいてはある徹底がなされている。
-上司も部下もお互いストレスを抱えてやっているというのが日本の会社です。エアポート・テストとは独特のやり方なのでしょうか。
何かの才能に突出しているけど、一緒に働きにくい人を仲間に入れていくより、今は才能が発揮しきれていなくてもポテンシャルを持っていて、一緒にいて気持ちのいい人を集めていきたいというアプローチです。そうしたこだわりはベンチャーだったころの気持ちを忘れないことだと思います。
-末松さんは新卒者としてグーグルに入社されたのですか。
末松:はい、そうです。新卒で入りました。博士課程に進学しょうと思っていたんですけれども、大学の先輩が「面接が面白いから入るつもりなくても受けるといいよ」と言ってくれて、それがきっかけで受けて通ってしまったのです。
-面白い面接というのはどんな面接だったのですか。
末松:技術的なテーマで技術者との1対1の面接を1時間続けるという面接です。それを何回かくり返すのです。技術者が「こういう問題があるんだけど、君ならどうやって解く?」という感じで、実際の技術的な問題をいろいろと出してくる。それに対して答えると、「これだとこういうときにうまくいかないね」と突っ込みが入ってきます。実際に入社してから必要なのは技術力です。ただ技術力とは、ある程度の学力がベースにあってこその技術力なのです。学力があってもプログラムが書けないとしかたがない。たしかな学力に裏打ちされたプログラミング能力が必要という感じで、そこを試すのだと思います。
-ペーパーテストもあるんですか。
末松:私は受けていません。
河野:基本的にはありませんね。でも、人によってはあるかもしれません。そのあたりは面接者の自由なんです。学校の成績とか卒業証明書は基本的に提出してもらっています。あとは、その職種に応じて必要なものが問われるわけです。
-エアポート・テストというからには、その人生観とか人物の背景を知ることがポイントだと思ったのですが、意外にも技術的なテーマの面接で確かめるわけですね。
河野:はい。しかし、1時間もインタビューしていたら、技術的なやりとりの中でも、やはり言葉の端々に、いろいろな性格的要素が出てくるものです。たとえば、技術的な知識については答えられるかもしれないですけれども、その人の性格としてトライアル・アンド・エラーは嫌いかもしれないではないですか。でもわれわれの会社は常にトライアル・アンド・エラーで何もかも試してみないと分からないというところがあるので、性格的にトライができない人には向かないという結論が面接から感じ取れたりするということです。