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グーグルの人材育成と活用~自由だからこそ問われる価値観の共有

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』編集部

2011年09月29日 公開 2023年01月10日 更新

自由だからこそ問われる360度の評価

創造性を最大限発揮するための配慮をグーグルは考えている。だから自由度が高いのだが、その一方で評価はどうなっているのだろうか。

-グーグルのエンジニアには就業時間の20パーセントまでなら自分で選んだプロジェクトに使うことができる「20パーセントルール」というものがあると聞いています。1日の勤務時間の20パーセント、あるいは1週間5日間のうちの1日を使うという権利があるわけですね。

末松:そうですね。

河野:あくまで権利で、時間の割合も目安なので、柔軟にそれを活用している人もいれば、活用していない人もいます。

末松:人によっては20パーセントを超えている人もいるようです。ただ普段の仕事がうまく進んでいる限りにおいてはだれも何も言いません。20パーセントを他のことに時間を費やしてメインの仕事の結果が出ていなかったら、たぶんそれは次の業績評価のときに反映されるし、そのあたりは自己責任ではないでしょうか。あとは人に迷惑をかけないという原則を守れていれば、だれも文句を言わないと思います。

-社員それぞれが節度を持ってやるべきことをやりながら、その中で20パーセントの時間を使いたい人は使うと? 評価はフェアになされるのでしょうか。

河野:社員は期の目標を四半期ごとに自由に書いて、それを社内のイントラネット上でオープンにします。それは社内のだれもが全員分、自由に見られるんです。

-人物を360度から評価するというのは4人とか5人とかのチームの中の360度ではなくて、社内全体の評価ということですか。たとえば広報の方がエンジニアを評価するということは……

末松:できますね。「今回の雑誌取材を受けていただいてありがとうございました」といった評価が河野から来る可能性も(笑)。

河野:(笑)あります。

末松:それぐらいじゃ来ないかもしれませんが、書こうと思えば書けます。

―ミッションに対してすごく社員の方々がフランクに民主的に働くということにおいては本当に自由に運営されているというのがよく分かります。チーム単位でオフのときも活動することはあるのですか。

末松:チームレベルでレクリエーション用の予算がある程度ついていて、それを使って仕事を休んでみんなで1日どこかに行くということもあります。チームのマネージャーがOKと言えばOKになります。気分転換のためのイベントはよくあります。

河野:発想の転換をするためにはオフィスを出て、まったく違うところで会議をするのもいいかもしれないし、サービスの評判を外に出てヒアリングしたほうがいいかもしれないですし、人を観察したほうがいいかもしれない場合も当然ありますから。

末松:みんなでどこかに出かけるというのも、偉い人が決めるのではなくて、行きたい人がそろそろやろうよと言って、みんなにアンケートを取り、場所が決まったらレクリエーション用の予算を充てるということが多いです。だから運動会をやりたくない人が運動会の運営に悩むこともないのです(笑)。

―トライアル・アンド・エラーでは、当然エラーに終わる場合もあります。そういった失敗に対する社内の考え方は、どうとらえられているのでしょうか。

末松:失敗は結構あります。しかし、失敗したからダメというよりは、早く失敗して早く脱出する。早めに失敗が分かれば、次に進めますし、失敗の中でもいいところは何かしらあるわけですから、そこだけでも明らかにすることが大事です。失敗しても、何かしらのアウトプットが必要です。本当に完全な失敗というのはなかなかないと思うんです。

河野:それに、1人で失敗するということは基本的にありません。常にチームなので、チームとして失敗する。また、失敗の過程の中で、何かしらリカバリーがありうるようなチャレンジをするはずです。

-チームはローテーションがありますか。

末松:約1年半は1つのチームにいます。すでにプロジェクトで走っているチームに途中で混じることも結構あります。こうした異動を人事はまったく把握していません。個々のエンジニア自身でマネージャーと話をつけて、「じゃあ、うちのチームは今、こういう人がほしいからやる?」という具合で異動が決まります。チーム編成の目安はあるので、そのつど調整がなされます。

-エンジニアとマネジャー間の異動というのは。

末松:それも、各人が選択することです。エンジニアとして昇格する人もいれば、途中でマネジメントに転進して昇格する人もいます。マネジメントは一人でする仕事よりも大きな成果をチームとして出せます。それを魅力に感じる人もかなりいるのです。私の場合は、今はエンジニアとしての楽しさが優先されています。

-伺っていると、グーグルはきわめて社員の自由を認めている。その中で経営理念はいわば、空気のような感覚で、仕事の会話の中で自然に語られ、モラルや成果の指標となっているようですね。

河野:そうです。グーグルの「10の事実」は、読み方ひとつでどうにも解釈できます。そして矛盾も生じます。「スピードが速いほうがいい」と言う一方で、「すばらしいだけでは足りない」と言う。その場合どちらを詰めていくのかという葛藤は、当然日々行われるわけです。そこを話しあいによって解決していく、あるいは時に衝突しながら、解決のパターンをどんどんつくりあげていくということになります。特にエンジニアの現場はそういう過程で「10の事実」が確かめられていきます。

個人の自由と尊厳の上に、結果責任がある。グーグルの経営理念はその仕事の遂行のために、さまざまな示唆を与え、問題解決をサポートしている。河野氏の話からは、「10の事実」の身近さが浮き彫りになった。

取材後、グーグルの社内を見学すると、その斬新さ、自由な社風はすぐに理解できる。会議室の名前も「品川」や「浜松町」といった山手線の駅名が付けられ、共用のフロアには卓球台があり、六本木の夜景をシルエットに卓球に興じる社員もいる。社内食堂は朝食でも夕食でも、無料で利用できる。たくさんの観葉植物や配置されたインテリア1つにも遊び心があふれている。

しかし、これだけの自由を供与されながら、現場に漂う「10の事実」が社員の仕事の端々で語りあわれる。末松氏の発言にあったように、創業者も含めて、すべての現場で、社員同士で理念が研鑽され、創造されているといえるかもしれない。とすれば、ボトムアップの議論から、「10の事実」の内容が更新され、さらには11番目の事実が理念に加わることもありうる。それがグーグルにおける経営理念の立ち位置なのではないだろうか。

 

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