「相互信頼」の理念にもとづき、世界の女性の美に貢献する~株式会社ワコール
2017年12月26日 公開 2017年12月26日 更新
安原弘展(やすはら・ひろのぶ)
株式会社 ワコール代表取締役社長執行役員
1951年岡山県生まれ。同志社大学商学部卒業後、1975年ワコール入社。インナーウェア事業、ファミリーウェア事業の商品営業部を経て、北京ワコール(現・中国ワコール)の総経理に就任。中国事業拡大の基盤を築く。その後、国内主力事業のウイングブランド事業本部長、ワコールブランド事業本部長などを歴任し、2011年4月から現職。
聞き手:鈴鹿可奈子(すずか・かなこ)
株式会社 聖護院八ッ橋総本店専務取締役
京都市生まれ。京都大学経済学部卒業。在学中にカリフォルニア大学サンディエゴ校エクステンションに留学。信用調査会社勤務を経て、2006年に聖護院八ッ橋総本店に入社。1689(元禄2)年創業の老舗の味を守りながら、新ブランド「nikiniki」(ニキニキ)を立ち上げるなど、従来の八ッ橋の概念を超えた商品づくりにチャレンジしている。
京都企業が明かす「うちの経営哲学」
インナーウェアのトップメーカーとして、国内はもちろん世界の女性に親しまれるワコール。創業以来、文化都市・京都のアドバンテージを活かしながら、高品質な商品づくりと、顧客への丁寧なコンサルティングセールスで業界をリードしている。同社の発展を支えているのが、「相互信頼」の経営理念。この考え方にもとづいて、従業員の働きやすさや生産性の向上、お客様とのつき合い方といったこれからの経営テーマに、どのように取り組んでいるのか。安原弘展社長にうかがった。
構成:森末祐二
写真撮影:白岩貞昭
女性を美しくすることに貢献する平和産業に
鈴鹿 御社は地元京都の企業としてもちろん昔から馴染み深いのですが、「女性に美しくなってもらう」という経営理念を掲げられているのを改めて知り、とても素晴らしいなと思いました。
安原 ありがとうございます。「ワコールの目標」として、「世の女性に美しくなって貰う事によって 広く社会に寄与する事こそ わが社の理想であり目標であります」という言葉を掲げています。これは一九六四年に株式上場した際に明文化したものですが、創業当初から現在まで一貫する理念です。
女性が安心してみずからの美を追求するためには、前提として「平和」が実現されなければなりません。創業者の塚本幸一は旧日本軍の兵士として戦争を経験していますが、そういうことも踏まえて、創業者は「女性を美しくすることに貢献する平和産業になる」という理念を掲げたのです。
女性が美しさを追求し、活躍できる平和で文化的な社会であるということは、あらゆる人が輝くことができる社会でもあります。つまり、女性の美は、世の中の活性化のもとと考えてもいいでしょう。
鈴鹿 なるほど、平和を願う深い思いが込められているのですね。御社ではまた、「相互信頼」という理念も大切になさっているとうかがっています。こちらはどのような経緯で生まれたお考えなのでしょうか。
安原 「相互信頼」という言葉は、「わが社は 相互信頼を基調とした 格調の高い社風を確立し 一丸となって 世界のワコールを目指し 不断の前進を続けよう」という社是に盛り込まれています。
これが生まれる背景にあったのは、1961年頃から起きた労働組合との争議でした。一時はストライキが起こる寸前まで関係が悪化したのですが、創業者はちょうどその頃に、出光興産創業者の出光佐三さんの講演を聞く機会がありました。
「出光興産では、人間尊重の和の精神を取り入れており、就業規則も定年も出勤簿もない」という話に感激した創業者は、これこそ理想の労使関係だという思いを抱いたそうです。そして講演の翌日に、「組合員である従業員を徹底的に信頼する」と宣言し、組合からの正式な要求はすべて受け入れることを提案したのです。
当然、役員からは反対の声が上がりましたが、創業者はこれを押し通し、結果的に労使関係は劇的に改善されていきました。勤怠を考課に結びつけないとしたにもかかわらず欠勤率が顕著に低くなり遅刻も大幅に減るなど、相互信頼の考え方が社員の間に浸透していったのです。私も入社した時にその考え方を知りましたが、タイムカードがないと聞いて嬉しかったですね(笑)。
鈴鹿 そうでしたか(笑)。でも、その信頼関係を築くのは、簡単なことではないでしょうね。
安原 ええ、相互信頼というのは、人事の評価であるとか、そういうレベルを超えたところにあるものです。相手に信頼してもらうためには、まず自己研鑽が不可欠ですし、精神の強い結びつきも要求されます。そうしてお互いに「相手のことをわかっている間柄」になっていくのです。そういう意味で、人間の集団のあり方として「相互信頼」がベースになっているのは、ワコールの組織を非常に強くしていると考えています。