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「三次元の読みを駆使する、四次元の棋士」 師匠が分析する藤井聡太の強さ

杉本昌隆(棋士)

2018年02月18日 公開 2020年01月24日 更新


 

※本記事は、杉本昌隆著『弟子・藤井聡太の学び方』(PHP研究所刊)より、一部を抜粋編集したものです。
 

自分を信じるハイリスク・ハイリターンの指し手

私たち棋士の多くは、次の指し手をおおよそ3つに絞り込みます。まず指し手が5つから7つ浮かんだときも、最終的に残るのは3つくらいです。

危険を承知で踏み込んで、積極的に勝ちにいくか。あるいはこれを選べば、とりあえずすぐには負けない無難な一手を選ぶか。どちらを取るかは、その場面にもよりますが、最後は自分の将棋観に沿う手を選ぶことが多くなります。

藤井に関しては、間違いなく踏み込むほうを選びます。「なぜここで、あえてこんなに危ない手を指すのか」と驚くくらい踏み込んでいく。無難なほうを選んでおけば負けにくいし、相手が間違う可能性もあります。そうすれば、もっと簡単に勝てるのです。

危険な手を選ぶと、まず一手一手慎重に指し手を読まなければなりません。安全な手を選べば均衡な状態を保てますが、危ない手はすぐに決着がつく。そのぶん恐ろしい思いもします。藤井は私が初めて会ったときから好んでそういう手を選んでいました。

「危なそうだ」とひるんだり、「負けたらどうしよう」と恐れたり、「とりあえず安全策を取ろう」と消極的にならず、最短で勝ちにいく。邪念を交えずに自分の限界に挑戦する将棋です。

一手十秒で指す「十秒将棋」は、読む時間がないので反射神経で思いついた手を指します。

そういうときも藤井が最初に思いつく手は、失敗を恐れない手、ハイリスク・ハイリターンの手です。そうした選択を迷わずしてきたことが、彼の将棋をかたちづくっています。

それが将棋の考え方としては、いちばん正しいのです。なぜなら、最後に相手の玉を詰ますゲームが将棋なのであり、それが将棋の原点だからです。

たとえ守りが薄くても、指し手を見れば、藤井が自分を信じていることがはっきりわかります。「この手を選んだら間違えるのではないか」とか「間違えたら負けてしまうのではないか」などと考えず、踏み込むことにためらいがありません。

これはたとえ年齢的に若くても、誰よりも集中して将棋を指してきたという自負に裏打ちされているように思います。

将棋を覚えて十年です。将棋に費やしてきた時間は、大人に比べると決して長くはありませんが、圧倒的に密度が濃い。学びは時間ではなく、密度ということです。

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