「三次元の読みを駆使する、四次元の棋士」 師匠が分析する藤井聡太の強さ
2018年02月18日 公開 2020年01月24日 更新
弱い駒をうまく使いこなすことが勝負を制す1つのカギ
「将棋は歩から」といいます。力は最低でも、歩がなければ自陣がむき出しになってしまって、防御も攻撃も弱くなります。
これは組織論にも応用できる心得かもしれません。会社組織なら威力の強い社長や幹部だけではなく、数は多いけれど戦力には乏とぼしい若手や新人の働きがなければ、会社全体の力は発揮できません。
若い人たちは熟練度は低いけれど、数も多いし小回りも効く。まずその人たちの活躍があってこそ上が動きやすくなる。これは将棋と組織運営に共通する傾向だと思います。
角と桂馬は、どちらも一番弱い歩で追われることがあります。バックできない桂馬はよく歩で取られます。その意味で、桂馬は、基本的に守りでは働きません。棋力の低い人は往々にして、この桂馬を上手に使いこなせません。
会社でいえば、桂馬は組織防衛にはほとんど役に立たない人材です。斜めに構えて物事を考える個性的な異端児というか、反抗的だけど一家言持っているようなタイプでしょうか。こうした人材をいかに生かすかが、リーダーの手腕でしょう。
角はそのままでも強い駒ですが、まっすぐ前に進めないので、やはり歩で追われることがあります。その意味では、角も桂馬もそれぞれ強い特殊能力を持ちながら、弱点が非常にはっきりしています。
飛車は誰が使っても威力を発揮する駒ですが、角と桂馬はいわば使い勝手の悪い駒なので、才能がないと使いこなせない駒です。でも使い方によっては、最強の飛車よりも、はるかに強力な働きをします。
基本的に威力の弱いこの2つの駒をいかにうまく操って有効に使うか。それが将棋を制する1つのカギとなり、将棋を指す醍醐味でもあります。
藤井の将棋は角と桂馬の使い方に目を見張るものがあり、なかでも桂馬は本当にうまい。それをむしろ攻撃の軸にしている気配すらあります。その指し手には詰将棋で鍛えた発想が生きています。