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なぜ「やらされ職場」が生まれるのか?~魅力のない会社はさっさと潰した方がいい

青野慶久(サイボウズ代表取締役社長)

2018年03月29日 公開 2022年08月09日 更新

集まる理由がないカイシャで働いて、楽しいはずがない

サイボウズもかつてはそうでした。

理念に沿って、安くて使いやすいグループウェアを開発したところ、予想以上にヒットして起業から三年で上場。しかし、その後、事業は伸び悩み、なんとなく組織だけが残ってしまいました。そこで、事業を拡大するために、企業の買収(M&A)を始め、一年半で九社を買収。売上はあっという間に四倍に。しかし、理念なき拡大はマネジメント不全を引き起こし、組織は弱体化しました。

これではいけないと、新しい企業理念「チームワークあふれる社会を創る」を掲げ、事業の整理と組織の一体感を取り戻すまで数年の期間が必要でした。

この経験から、組織に最も重要なことは、社員が一体感を持って取り組める企業理念だと気づきました。しかし、世の中の多くの企業は、企業理念を軽視しているように思えてなりません。企業理念を重視しないということは、集まる理由が弱いということです。集まる理由がないところで働いて、楽しいはずがありません。自分は何のために働くのか。企業理念は、働く一人ひとりにとって、モチベーションの根幹なのです。
 

「やらされ職場」が生まれる仕組み

「カイシャは永続すべきである」と言われることがありますが、私はそれには賛成しかねます。これからの時代、もっとカイシャは作りやすくて、解散しやすいものになると思っているからです。だから、理念が弱くなってしまったカイシャは、むしろ早くリセットしてしまったほうがいい。

カイシャという妖怪は、最初は規模も小さくて影響力は弱いですが、毎年利益を出しているうちに、どんどん規模が大きくなっていく。カイシャの口座にあるお金も増え、モンスター化していく。そして、創業者がいなくなり、理念を強く持てない代表が、その組織と口座を引き継ぐことになります。以前よりはるかに大きくなったモンスターの代理人になるのです。これは危ない。でも、今の日本にはそんなカイシャがたくさんあります。

理念を持てないサラリーマン代表取締役は、とりあえず他人から批判されないように、雇用を維持し、売上と利益を向上させることを目的に経営をし始めます。すると、職場にやらされ感が出てきて仕事を楽しめなくなるし、社会の役に立っている感覚も失われてしまう。目先の数字に追われる毎日。だったら、一回リセットすればいい。

カイシャはバーチャルな人なので、このモンスターが死んでも、じつは誰も困りません。そんなカイシャはいったん解散して、継続したい事業は引き取ってくれるところに売却する。溜まったお金は、新しいカイシャを起こす仲間に投資をしたり、社員が転職に必要なスキルを身につけるために使ったり、今までお世話になった関係者で山分けしたりすればいい。

実在しないモンスターの口座の残金がゼロになっても、生身の人間は何も困りません。むしろ人間への還元が増えるという点で、歓迎できることかもしれません。
 

魅力がなくなった会社は、さっさと解散した方がいい

人をワクワクさせてくれる理念は世の中にたくさんあり、そして、次々と生まれています。魅力的な理念を掲げ、実現のために手助けしてほしいと思っているカイシャはいくらでもあるのです。

新しいことを始めるには、今やっていることをやめる必要があります。どんどんやめて、どんどん始めればいい。

例えば、世の中の部活動やサークルも、だんだん魅力がなくなってきたら、一回解散して別の新しいサークルや新しい部を作り直している。そうやってまた、人が集まる活動の魅力を取り戻す。とても自然なことです。

どうしてカイシャは永続しなければならないのでしょうか。もしカイシャを解散することで、今の顧客が困ってしまうのであれば、顧客と相談して困らないような手を打てばいい。カイシャと事業は別物です。継続すべきは顧客に必要な事業であって、カイシャではありません。

むしろ、理念を失ってまでカイシャを存続させるほうが、社会への悪影響が大きいと私は思います。「カイシャを永続させる」合理的理由は存在しないのです。

カイシャが生まれるとき、それはとてもドラマチックな瞬間です。誰かが掲げた魅力的な理念に共感して人が集まってきて、例えば大きな社会問題を一緒に解決したい、新しい製品やサービスを生み出したいと心から願ってカイシャを作る。それは、一生の思い出に残るようなワクワクできる瞬間です。

ところが、当初の目的を達成し、次の理念が曖昧であるにもかかわらず、リセットしないで「とりあえず、何かやらないと」とカイシャを存続させていく。

これだけインターネットが普及し、たくさんの人々がつながるようになると、人を集めるのも、お金を集めるのも比較的簡単です。理念がぼんやりしたカイシャは、さっさと解散してしまって、新しくエキサイティングなカイシャを作ったほうが、はるかに楽しそうだと思います。

あなたはカイシャの理念を言えますか?

カイシャの理念にワクワクできますか?

答えが「NO」なのだとしたら、「カイシャが楽しくない」理由の一つはそこにあるのかもしれません。
 


 

※本記事は、青野慶久著『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』より一部を抜粋編集したものです。

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