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ヨコ型リーダーシップで仕事をプロフェッショナル化する

高橋俊介(慶應義塾大学大学院特任教授)

2012年01月25日 公開 2024年12月16日 更新

想定外の変化が当たり前のように起こる21世紀的仕事環境・経済環境。

この中で、長い間第一線に立ち、やりがいを感じながら、価値を提供し続けるにはどうしたらいいのでしょうか。

そのひとつの答えが、生涯プロフェッショナルという働き方です。

人事・組織論の第一人者である高橋俊介氏が、ビジネスパーソンへのインタビューや企業事例をもとに、プロフェッショナルとしての思考と行動の条件を明示します。

※本稿は、高橋俊介著『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)の一部抜粋・編集したものです。

 

商社はいかにして化学プラントを受注したか

 リーダーシップは、タテ型とヨコ型の2つに大別することができます。

タテ型リーダーシップとは、リーダーが命令権限のある自分の部下にビジョンや進むべき方向を示し、彼らのモチベーションを高め、さらに先頭に立って組織を引っ張り、目標達成に責任をもつというものです。戦国武将が発揮するようなリーダーシップといってもいいでしょう。

また、最近いわれるようになってきた、部下をうまく支援してやる気を出させ、組織の活性化を図るサーバントリーダーシップも、それが上司部下の関係のみで使われるならタテ型リーダーシップの一種です。

これに対しヨコ型リーダーシップというのは、タテ型序列を前提としない、直接権限の及ばない相手に対し、間接的な影響力で行動を促すものを指します。

総合商社のような総合型企業においては、このヨコ型リーダーシップを発揮して、1+1を2ではなく、3や4にできるリーダーがとりわけ重要です。

実際に私が耳にした例では、次のようなものがあります。

ある日本の総合商社が、アジアのある国に化学プラントを輸出する商談を進めていました。ところが、他国の企業からも強烈な売り込みがあるようで、競争が厳しそうです。

そこで日本の担当者はこう考えました。「競合他社はみな化学プラントの専門企業だが、当社は総合商社企業だから、その強みを活かそう」

それで相手国に、「もしこの案件を当社に発注してくれるなら、プラントが完成後、ここで製造する製品の何部かを、当社の化学品部門が一括して販売を請け負う」という条件を提示し、見事大型受注を成功させたのです。

しかし、こういう事例は、実はそれほど多くありません。部門間を横断してプロジェクトをまとめ、シナジー効果を出すというのは簡単ではなく、それをできるリーダーが限られているからです。

この例でも、プラント部門のリーダーが化学品部門に足を運んで、「受注が決まれば会社にとっても大きなプラスになるから、ぜひ協力をお願いします」と頭を下げても、普通は断られます。

それはそうでしょう、どこの部署にもその部署なりの営業計画や売上目標、あるいは解決すべき課題などがあり、余計なことをやっている余裕はないのです。

そんな相手を説得しその気にさせるには、相手の価値観を探り、それに沿ってストーリーを構築し、相手にとってもメリットがあると納得してもらわなければなりません。その総合商社のプラント部門には、幸いそんなヨコ型リーダーシップが発揮できる人がいたから可能だったのです。

日産自動車のカルロス・ゴーン社長が就任後最初に指摘したのが、組織がタテ割でその壁が高すぎるということでした。それが多くの問題を引き起こす諸悪の根源だとして、解決するためにつくったのが、組織の枠を越えたクロスファンクショナルチームです。

さらに、最近は自社内だけではなく、企業どうしのコラボレーションも盛んになってきています。そして、この傾向が今後も続くのは間違いありません。つまり、ヨコ型のリーダーシップの重要性は、ますます高まっていくということです。

 

自ら提案し、活路を拓いたSE

ヨコ型リーダーシップは、プロフェッショナルが自分の顧客に価値提供をするときにも必要になってきます。

現在のように各分野の専門性が加速度的に進み、なおかつ複雑化してくると、顧客自身が、自分の抱える問題がどうすれば解決するかという、正しいソリューションの形を思い描くのは、ほとんど不可能です。

だから、顧客に何をしてほしいかを尋ね、それを忠実に実行する下請けスタイルでは、問題解決に至りません。

そうではなく、いま求められている営業は、顧客より半歩先に行って、「あなたの問題はこれです。解決するためにこれをこうしましょう」と、自分のほうからどんどん提案することで相手を引っ張り、「なるほどそうだったのですか。それではあなたにお任せします」といわせるソリューションコンサルティングなのです。

そして、これはまさにヨコのリーダーシップそのものだといえます。

ヨコ型リーダーシップがない営業は、顧客に振り回され、ただ疲弊していくだけです。ひとつ例を挙げましょう。

ある大手企業のSEが、社内のキャリアアドバイザーのところに相談にきました。

彼はもともと優秀なSEで、数カ月前から顧客の会社に常駐して、そこのプロジェクトに参加していたのです。

ところが、顧客の意思決定が突然変わることがしばしばあり、そのたびに仕様の変更を余儀なくされました。それまで積み上げてきたものをゼロに戻して、一から開発をし直すということが、あまりに煩雑に繰り返されたのです。そのため、やってもやっても前に進めない徒労感に襲われ、すっかり自信を失ってしまったのです。

「自分はきっとSEに向いていないのです。違う職種に異動させてください」という彼の訴えをきいたキャリアアドバイザーは、本人の承諾を得て上司に連絡し、3カ月やってみて、それでも職種転換したければ認めるという言葉を引き出しました。

3カ月後、キャリアアドバイザーが彼のところに出向き、 「やはり異動したいですか」と尋ねると、彼は活き活きした表情でこう言ったのだそうです。

「とんでもない。SEは私の天職でした。このまま一生続けます」

さて、3カ月の間に、いったい何が彼に起こったのでしょう。

実は、カウンセリングを受けた後、彼はこのように考えるようになったのです。

「お客さんから言われたことをやるのではなく、こうしたらどうかと、自分から先に提案するようにしたらいいのではないか」

当初、彼は顧客の指示に従うのが自分の仕事だと信じていたので、自分から相手に提案するようなことはほとんどありませんでした。

しかし、「こうすればもっとよくなります」「事前に相談していただければ、こんなこともできたんですよ」といった情報を、自分のほうからコミュニケーションするようにしたのです。

そうしたら、少しずつ彼の意見に耳を傾けるようになり、やがてプロジェクトの意思決定にかかわる会議にも出席してほしいと、逆に向こうのほうから懇願されるまでになりました。

その会議でも、専門家である彼の意見は高く評価され、顧客から信頼を得た彼は、ついにシステム開発を自分の考えで進めていけるようになったのです。

要するに、彼は顧客のいうことを黙ってきくのではなく、顧客に知識やスキルに基づいた解決策を提案することが、自分の提供価値であるということに気づき、同時にそうすることによって、自分の仕事をプロフェッショナル化することに成功したのです。

 

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