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「一・五代目」の気概~藤野清治・京とうふ藤野社長

マネジメント誌「衆知」PHP言志録

2018年05月06日 公開 2018年05月07日 更新


 

二代目ながら「一・五代目」の気概を持って

家業は石川県・小松市で機織業を営み、地元では資産家でした。小松飛行場の拡大のため引越すことになり、先祖伝来の土地・家屋を売却し、京都で豆腐屋を開きました。私が小学校6年の時でした。

乳母日傘のおぼっちゃん生活が、学校が終わると店の手伝いに追われる日々に変わりました。高校卒業後は家業を手伝い、盆と正月の小遣い以外給料もなく、年中無休でした。

豆腐づくりは、毎朝午前3時から始まります。特に京の冬は厳しい寒さで、とても辛いもの。

ある日、お取引先のスーパーの店頭で特売品として家の豆腐が安値で売られているのを見ました。両親が身を粉にしてつくった豆腐が、激安の値段。悲しいというより、怒りがこみ上げました。その時、「丹精込めてつくった豆腐を、自分で値段をつけて自分で売る」と、心に決めたのです。そのためには、自社の豆腐の付加価値を高め、ブランド化する必要がありました。

30歳で社長に就任すると、豆腐製造の傍ら、豆腐や油揚げを使った「おばんざい屋 豆魂」という料理屋を京都・宝ケ池に開きました。料理を盛る器に竹や蓮の葉といった自然の素材をふんだんに使うなど、当時まだ珍しかった趣向が女性誌で紹介されて大評判に。予約が3カ月先まで一杯になるほどでした。

また、いろいろな豆腐があってもいいという発想から、「豆富百撰」を考案。石川県能登仁江海岸の塩苦汁、丹波の大豆と京の名水など選りすぐりの素材を使った「苦汁豆富」をはじめ、胡麻豆富、柚子豆富、おぼろ豆富、湯葉豆富など100種類もつくり、おしゃれなショップで販売しました。これが有名百貨店にも販路が広がるきっかけとなりました。宅配便など物流のインフラ整備が進み、生ものも配達が可能になった頃には、通信販売をいち早く開始。お中元には冷奴セット、お歳暮には湯豆腐セットのギフト商品をつくりました。今や年間3万セットを売る大ヒット商品です。

続いて京の台所・錦市場にデザートショップ「こんなもんじゃ」をオープン。豆乳ドーナツ、豆乳ソフトクリームが大人気となりました。「けんこう仕込豆乳」も、ヘルシー志向の女性を中心にご好評をいただいています。

ほかにも京都駅に豆腐料理専門店「京豆富不二乃」をオープンさせ、京都府加悦町には「ISO HACCP」認証取得とうふ工場を立ち上げました。業界ではもちろん初のことです。

二代目ながら、「一・五代目」の気概を持ってきたことが、こうした旺盛な事業意欲の源なのかもしれません。挑戦と試行錯誤の連続でした。でも、一番大変だったのは、父との葛藤だったように思います。父は事業拡大に厳しく、特に新しいことには慎重でした。私の労力の8割は、父の説得にあてられたといってもいいくらいです。

今、創業時と従業員数で50倍、売上で100倍にまでなりましたが、父から直接褒められたことは一度もありません。ただ、父は「本当によくやっている」と親戚に話しているようです。父が内心では私を認めてくれたことが、私の人生において何より嬉しいことです。

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