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祝『万引き家族』パルムドール受賞記念! 主演リリー・フランキー×是枝裕和監督、懐かしの対談を一部公開

2018年06月08日 公開 2018年06月08日 更新

物語がぐっと加速するひと言

リリー 僕の家、つまり斎木家は、実際にある群馬の電器屋さんの店舗と部屋をそのまま借りたんですが、撮影中も奥の部屋には借りているご家庭のおじいちゃんがいたんですよね(笑)。

是枝 はい(笑)。

リリー それで、おじいちゃんに申し訳ないことに、福山くん演じる良多が「(声真似で)大丈夫か、こんなとこで」とか(台詞で)いうんだよね(笑)。いやいや、実際に住んでらっしゃる方もいるから! みたいな。

是枝 ははは、そうでした。

リリー 先日の高崎映画祭で、あの家のおじいちゃんからお箸を一膳いただいたんですよ。

是枝 僕もいただきました。

リリー 僕はその家の父親・雄大を演じたわけですけど、まず監督から雄大さんの細かい設定を口伝えでいわれたんですよね。たぶん雄大さんは奥さんとは初婚じゃないだろうと。そしてなんとなく九州にいて、そのあと関西にもいたんだけど、いまは群馬にいて、そうやって放浪しているから言葉もまざっていると。関西的なところは子どもに言葉が遺伝しているとかね。そんなキャラクターの背景をいろいろ伺いました。

是枝 リリーさんのおかげで3人の子どもも本当の子どもみたいに懐いてね。駐車場でパピコでバンバンやるところは、本当に蹴られていましたよね(笑)。

リリー いやもう、本当に腹立つんですよ。マジで蹴ってくるんですよ、マジで。だから「あそこのドアの向こうにはお化けがいる」という話をしたら、ビビりまくってやっと黙ってくれた。子どもはお化けに弱いということを撮影の初期に発見しておけば、暴力を受けずに済んだのになって(笑)。
キッズパークで風船のなかに入ってゴロゴロ転がるシーンでも、是枝さんは「子どもとちょっと遊んでいてください」というんだけど、それは撮影しているか否かに関係なく、遊んでいてほしいという意味でしたよね。だからそうしていたんだけど、それゆえに子どもたちにとって僕というのはずっと遊んでくれる人という位置づけだった(笑)。ボールを投げ合うシーンなんか、僕が福山くんに「ちょっと代わってくれ」という台詞があるんだけど、すごい至近距離から本気で顔に当ててくるんですよ。マジ代わってほしかったです(笑)。
ホントにヤバいヤツらでした。子どもを3人育てているお父さんやお母さんは心から尊敬します。

是枝 ですね(笑)。

リリー それでインタビューでも「リリーさんが演じた雄大さんはとてもいいお父さんですね」などといわれるんですが、僕は世のなかのお父さんの95パーセントは福山くんのほうだと思うんです。普通の父親であれば、家族にいい生活を与えたい、子どもにいい教育を与えたいと思っている。それを叶えるためには、お父さんは仕事で忙しくなるわけで、子どもとのコミュニケーションが取れなくなるし、お母さんは孤独になっていく。
一方、雄大さんの家族は、子沢山で、お父さんは家にいて子どもの相手をずっとしてくれて、お母さんがお弁当屋さんでパートで働いて、家族みんなが幸せそうであると。
でも僕は雄大さんちみたいな家族は、この実社会では一握りだと思うんですよね。そして、雄大さんも嫁さんのゆかりも、たぶん以前に福山さんちと似たようなものをおのおの目指していて、途中で挫折して、いまの幸せを標榜しているんじゃないかと。

是枝 リリーさんの「負けたことのないヤツは」という台詞は、たぶんそこだと思います。

リリー 僕の想像では、雄大さんは昔結婚していて、良多みたいな人物を目指したことがあるんだけど、仕事で失敗し、離婚もして、ダメな人になっているときに、スナックで出会ったのがいまの嫁だと思うんですよ。そして琉晴ができてしまったのを機会に、あとはビッグダディ化計画で3人産み育てるという(笑)。だから話を戻すと、映画を見ると良多の家がすごくさめざめとした家に見えるんですが、ほとんどの家は良多の家みたいなんじゃないかと思うんです。
良多でいうと印象的なのが「やっぱりそうだったのか」という台詞ですよね。みんなあの台詞で福山くんを嫌いになる(笑)。

是枝 (笑)「やっぱりそういうことだったのか」というのは、口にしてはいけない台詞だと思うんですが、取材をしてみると、成功しているお父さんにかぎって「俺が6歳だったときにできたことが、なぜ息子にはできないんだ」と自分の子ども時代と比較をして、できないのは嫁さんのせいにするという傾向が本当に多かったです。

リリー ひと言で人を不愉快にさせる壊滅的な、でもすごくいい台詞だなと思いました。あのひと言で、是枝さんのこの映画のテーマがわかるから。
『そして父になる』というタイトルになる前、馬の血統を表すようなタイトルを仮でつけておられましたが、(良多の父親役の)夏八木(勲)さんはああいう少し高慢な人であり、その血は変えられないという血統主義を良多が学び、でも良多のお兄ちゃんはエリートには見えなくて……。血統や血のつながりというのは、人の本能にある忌まわしくて面倒くさいことだけど、抗えないことでもある。だから一概にあのひと言が最低かというと、ああいう気持ちに準じて生きているか、抗って生きているか、人はさまざまだと思うから……。とにかく、あのひと言で映画の幅がぐっと広がる、物語がぐっと加速するという感じがします。また福山くんがいい感じに厭ないい方してるんだ(笑)。

是枝 子どもの小学校受験の面接が終わって最初の台詞が「儲かってるんじゃないか?」という台詞なんですよ。そうやってすぐお金の話をしたり、相手のいないところで悪口をいったり、雄大の家に初めて行くときなんか車のなかで「おいおいおい」って口にしたりするような人間なんですよね。

リリー でも、レクサスに乗って斎木家の店に行ったら、誰でも「おいおいおい」っていいますよ(笑)。

是枝 ははは、そうですね。ああいうのが福山さんはうまかった。最初のひと言目から厭な感じをどう出すか、良多の持つよい面とのコントラストを上手に表現してくれました。

リリー しかし主役の福山くんに厭な男を演じてもらうというのは、是枝さんもずいぶんリスキーなお願いをしましたよね。

是枝 (笑)受けてくださって、本当にありがたかったです。

リリー そういえば、是枝さんは福山くんが慶多の撮った写真を見てはからずも泣くという名シーンをカットしようとしていたんですよ。

是枝 その節は本当にありがとうございました(笑)。

リリー 監督のなかでは非常に通俗的というか、トゥーマッチだと思ったのかもしれないけれど。

是枝 ちょうどその前のシーンでいいカットが撮れていたんです。良多なりに追いつめられた感じがうまく出ていた。それで写真を見て泣くシーンも撮ったら、ちょっとウェットになりすぎるかもしれないと思って、脚本からカットしたんです。そうしたらリリーさんと真木さんに「あれはカットしないほうがいいんじゃないですか」といわれました。

リリー 監督は上品な人なので、そこまでやり過ぎなくていいと思ったんですよ。でも真木さんは「あそこは脚本の段階でも泣いたし、カットしないほうがいい」といい、僕も賛成し、そうしたら福山くんが「(声真似で)まあまあ、是枝さん、撮ってから決めればいいじゃないですか」とまとめてくれた。

是枝 そうそう(笑)。いままさに福山さんの声がよみがえってきました。

リリー 群馬の居酒屋でそんな展開になってね。

是枝 それで撮ってみたらすごくよかったので、これは必要だったなと思いました。本当にありがたかったです。

リリー 慶多がつくったお花も、雄大さんはすごく喜んでいるのに、良多はソファーの間から出てくるとか、偉そうに教育のことをいっているようで、意外と子どもを見ていなくて、でも慶多はすごく親に関心を持っていて接していたとわかる……。名シーンですよ。福山くんの涙も美しいしね。

是枝 ただ福山さんはどう撮ってもカッコいいので、カッコよくなりすぎないように気をつけていました。美しい横顔を撮るというのもしぼらないといけないなと。カッコ悪くというよりは、カッコいいんだけど厭な感じで撮らないと、人間としての肉付けができていかないので、そのあたりは福山さんと一緒にいろいろ考えましたね。

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