ハーバード大学で実践されている 「聞き手の心のつかみ方」
2018年07月19日 公開 2023年03月01日 更新
短い文を重ねパンチラインを強調する。SNSに最適なトランプの技法
今度はドナルド・トランプのやり方を見てみよう。トランプは原稿をおとなしく読むような人ではない。彼はコメディアンや古い時代の説教者のやり方を踏襲している。つまり、彼は即興で話をするのだ。
トランプのマジックはスピーチの長さにあるのではなく(とても長くなることがある)、ちょっとしたキャッチフレーズを詰め込むところにある。
彼はコメディアンのように短い文を畳みかけるように使ってパンチラインまでいき、そこで繰り返しやお気に入りのフレーズ(「私を信じてください」)を使ってそのパンチラインを強調する。
短い文のひとつひとつは、前の文と同じ話題や論理のこともあれば、まったく違うときもある。
コメディアンの話が、乾燥機のなかで消えた靴下の謎から、オペラみたいないびきをかく妻への文句へがらりと変わるのと同じように、トランプが選挙運動中にしたスピーチは、聴衆の規模の話から嘘つきのメディア、移民問題まで、たいていは非合理的に変わっていった。
一見、馬鹿げているようにも見えるが、これは昔からあるテクニックだ。あるとき彼のスピーチを見ていて、短い文を重ねる部分の時間を計ってみようと思いついた。すると、どれもだいたい12秒であることがわかった。これは興味深い。
そこで、ユーチューブにアクセスして、ほかのスピーチの動画でも計ってみた。ほぼ12秒だ。13秒以上になることや11秒を下回ることはめったにない。実に興味深い。
なぜ12秒なのだろう? それは、深く息を吸ったあとに、人間が息を吐き続けられる時間がだいたい12秒だからだ。
みなさんもぜひ試してみてほしい。深く息を吸って、息が切れるまでこのページを大きな声で読んでみるとわかる。
古代人は、人間が脳で何かを認識するまでにかかるのが、ちょうどそのタイミングだと信じていた。考えをうまく表現するのにも、同じくらいの時間がかかる、と。聴衆がその考えを吸収するまでの時間は?
スピーチのなかで、演説者が一息で話すのと同じくらいの時間がかかる。レトリシャンはこの時間のなかで短い文をいくつか重ねていく方法を「複雑複合文」と呼んだ。
偉大な演説者は例外なく、結論あるいは感情面でのクライマックスといえる箇所で、この短い文を重ねていく技法を使っている。バラク・オバマも2004年民主党の党大会でのスピーチにこれをつかっている。
リベラルなアメリカでも、保守的なアメリカでもなく、〝アメリカ合衆国〟なのです。黒人のアメリカでも、白人のアメリカでも、ラテン人のアメリカでも、アジア人のアメリカでもなく、〝アメリカ合衆国〟なのです。
キケロのように、オバマは聴衆をうならせた。一方トランプは、これをちょっと違ったやり方でやっている。
彼はコメディアンがギャグを言うように、短い文を重ねていき、12秒でわかる考えを風船のようにひとつずつ聴衆に投げるようなやり方をしている。
これは特にソーシャル・メディアに適した方法だ。というのも、ソーシャル・メディアを見る人の注意力が12秒より長く続くことはほとんどないからだ。
また、12秒ごとに観客に歓声をあげさせることで、観客の「自分も参加している」という気分を掻き立てる効果もある。
※本記事は、ジェイ・ハインリックス著『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。