桂歌丸さんが語った「古典落語へのこだわり」
2018年07月30日 公開 2022年08月08日 更新
おかみさんが噺を左右する
同じようにサゲを変えた演目に「尻餅」というのがあります。
これは、貧乏長屋に暮らす夫婦が主人公で、年越しくらいはせめて賑やかに、と「餅つきのふり」をする噺です。亭主は訪ねてきた餅屋の仲間も合わせて、一人四役をつとめなくてはなりません。これは大変に忙しい。
もともとのサゲは、おかみさんがお尻を臼の代わりに叩かれて、これはたまらんと「あとのひと臼はおこわにしてください」と懇願するのですが、あたしはおかみさんに逆襲させたかった。
それでうだつのあがらない亭主に対して、「今度はお前さんが臼だしな!」「俺の臼でどんな餅つくんだ?」「チン餅だよ」って変えたんです。
古典の中には、そのまんまのサゲじゃ使えないものがいくつもあります。
お客さんに最後気持ちよく笑って頂くために、そこまでの噺で登場人物たちをどう伝えるかが大切になってきます。「後生鰻」と同じですが、ここではおかみさんが亭主より強いんですね。
古典を始めたのは、地元横浜の独演会から
最初に入門した古今亭今輔師匠は新作畑の人でしたが、「新作も、土台になるのは古典だ」とよく言われていて、二ツ目の頃からは古典も少しずつやるようになりました。
完全に切り替えたのは、地元横浜の三吉演芸場で独演会を始めた一九七四年頃からです。
新作と古典では、使う言葉が違います。時刻の数え方、お金、ものの勘定も現代とは違いますし、口調や間も違う。
古典を熱心にやるようになったのは四十代に近づいた、という年齢のせいもあるかもしれません。
噺にも年相応というものがあるのでしょう。
※本記事は桂歌丸著『芸は人なり、人生は笑いありーー歌丸ばなし2』(ポプラ社刊)より一部を抜粋編集したものです。(ポプラ社提供)