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どの企業にも起こりうる不祥事にどう備えるか

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)

2018年07月27日 公開 2022年11月02日 更新

理念の浸透こそ課題

ただ、残念ながら事はそんなに単純ではない。冒頭に紹介したように、優れた経営理念を有する企業ですら、不祥事を起こしているからである。経営理念を絵空事にしている企業がどれほどあることか。

つまり、経営理念とはただ存在するだけでは効力がない。考えなければいけないのは、企業の組織を構成している社員が、自社の経営理念をどこまで理解しているか、なのだ。

それは理念の文言を記憶しているかどうかではない。内容をよく理解して賛同し、それにもとづいて行動できているかどうか。社員の内面にまで理念が浸透してはじめて、モラルを保つことができるのである。

その企業の組織が不祥事を起こすリスクをはらんでいるかどうかは、経営理念をみてもわからない。組織図があっても、それはイメージにすぎない。指揮系統が示されていることと、組織の各単位(構成員)が折々に適切な行動ができるかは別の問題である。

立派な理念を掲げて「これがわが社だ」と声高らかに宣言しても、理念を理解しないたった一人の不道徳な行動一つで、組織はとんでもない評価を下されることがあるのが現実だ。まして企業は営利を求める組織であり、なおさらその存在意義や活動のあり方・正当性を問われるのである。

社会の信頼を勝ち得なければ、企業は存続することができない。経営理念はその企業の理想を示す旗印とはいえ掲げているだけでは不十分で、社員に徹底して浸透・伝播していなければ、社会は認めてくれないのである。

 

経営者が備えるべきこと

経営トップは企業不祥事にどう備えるべきか。改めて整理すると、コンプライアンスの面では、その諸策を組織に徹底する地道な努力が求められる。それは専門の部門やスタッフだけの責任ではなく、経営トップから一般の社員まで全社的に取り組む姿勢が必要であろう。また、企業の社会的責任から考えるならば、自社が「社会の公器」としてどのレベルの責任を果たしているかをきっちりと顧みることが大切である。

そしてやはり必要なのは、経営理念を徹底して実践することではないだろうか。
 

まず確立

先述のように、幸之助は経営の基本として、「まず経営理念を確立すること」を挙げた。そこで重要視したのは、その経営理念が、“何が正しいか”というトップの人生観、社会観、世界観に立ったものであるということであった。だから、経営者の立場にある者は、自分の会社がどんな存在意義を持っているのか、そしてどのような考え方で経営をしていくのかということを、みずからの価値観からじっくりと思索し、その上で高い志ある経営理念が確立されているかどうかを真剣に検討しなければならない。
 

次に再解釈

自分が創業者ではなく、すでに経営理念も備わっている場合はどうするべきか。まず、自社の経営理念が「人生観、社会観、世界観」の部分も含め、今でも普遍的であるかどうかをよく吟味することだ。そこで重要なのは、その再解釈した理解を自分の言葉で社員に表現することである。それができなければ、経営理念に説得力が伴わず、高い志や倫理感を社員と共有することはできない。

その際、もし受け継いだ経営理念が時代に即していないと感じたならば、自分なりに新しい経営理念を打ち立てる必要が出てくる。それも経営者になった以上、挑戦しなければいけない課題である。

とにかく浸透

最後にみずからが納得し、確固とした経営理念や経営方針ができあがったなら、やはりそれらを組織に徹底して浸透させなければならない。そのポイントは、経営者から幹部、幹部から社員へと「何のための事業か」という理念があまねく理解されること。すなわち、それぞれの立場で再解釈がなされることであろう。経営理念の実践がよりよい企業倫理やサービスの向上に繋がり、業績に直結するのだという確信が社内で広がればしめたものである。

不祥事というと、すぐにコンプライアンスや企業の社会的責任といった各論に目が向くものである。しかし、本当は企業の存在意義や本質を表明している経営理念に照らして反省し直すべきではないだろうか。

経営理念を単なるお題目にしてしまってはならない。朝会などの場で共有する、理念の伝道師を養成するなど浸透の方法は様々あろう。経営理念の浸透に関する努力を継続し、「怠ればこそ不祥事が起きる」という覚悟を持って、経営者は臨むべきである。

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