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「社員の生き方」と「企業の永続性」を無視した日本企業 現場の革新を阻む「数値目標」

野中郁次郎(一橋大学名誉教授),田村潤(元キリンビール副社長)

2018年08月10日 公開 2023年01月05日 更新

(本稿はPHP研究所刊『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』に収録された「対談野中郁次郎氏 × 田村潤」より一部抜粋・編集したものです)

 

数値目標だけを追った結果、現場が機能しなくなった日本企業

野中 田村さんが45歳で支店長として赴任し、最下位ランクだった高知支店の業績を反転させる軌跡を描いた『キリンビール高知支店の奇跡』(講談社+α新書)を、わたしもたいへん興味深く拝読しました。

田村 ありがとうございます。ローカルな高知の話で、無名の著者が営業のセオリーを記しただけなのですが、予想外の反響があり、本人がいちばん驚いています(笑)。

野中 当たり前のことを成し遂げるのが、もっとも難しいんです。多くの読者が本書に共感を示した背景には、日本企業全体が共通の問題意識を抱えていることがある、と考えられます。

その問題を一言でいえば、アメリカ型の経営モデルを次々と導入したことへの反動として、「日本的経営は本当に時代遅れで陳腐化したのか」という疑問です。

ホンダの創業者の本田宗一郎さんは、「つくって喜び、売って喜び、買って喜ぶ」という「3つの喜び」をモットーとしてかかげました。しかし、ここではアメリカ的経営で語られる株主については触れられていません。

3つの喜びを達成すれば、結果的には利益が生まれ、株主も喜びを享受できますが、事後的なものにすぎない。本田さんの言葉は、企業は株主のために存在しているのではないことを如実に示しています。

ホンダに限らず、日本企業は本来、「世のため、人のため」という利他の目的を達成するために存在していたはずです。

しかし近年のROE(株主資本利益率)やPER(株価収益率)重視の近視眼的思考に陥りやすい四半期決算の導入により、数値目標が企業の目的にすり替わっている傾向があります。そこでは企業のもつ永続性や社員の「生き方」は不問とされていく。

しかし、数値自体に会計以外の意味はありません。同時に「なんのために働くのか」「会社の存在意義とは何か」という、主観的価値観を含んだ生き方を問うものでもありません。

京セラ名誉会長の稲盛和夫さんの経営哲学である「売上最大、経費最小」、そうすれば利益はついてくるという考え方は、数値至上主義の発想ではなく、働く社員が具体的に行動に移そうと思えるスローガンです。現場に「ROE8%」という目標を与えても、本社の意図は伝わりにくく、高揚感も生まれません。

田村 本書を読んだ読者からの感想を読むと、企画部門の上から目線による表面的な数字を追求されている営業マンの現状が痛いほど伝わってきます。

大事なものが置き去りにされて、かたちさえ整えればいいという形式的な仕事をしていると、業績は悪化します。

「わが社では成果が上がらず、会社の士気が下がっている」「本社からの要求が厳しく、若手から社員が次々と辞めていく」といった残念な声もあり、企業が抱える問題の根深さを痛感します。

それは、根本が間違っているからです。野中先生のおっしゃるように、結果にすぎない数値を最初に追い求めると、対策のための会議が続き、現場への指示が増えます。

やることが刹那な 的になるばかりで、末端の社員は次第に疲弊し、組織に閉塞感と苛いら立だ ちが漂い始める。

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日本企業が陥ってしまった三大疾病。現場がストレス過多で機能しなくなった

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