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「打てば響く組織」をつくるために、松下幸之助が大切にしたこととは?

2013年08月28日 公開 2022年07月11日 更新

※本記事は『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年9・10月号 特集 「打てば響く組織」への挑戦より、一部を抜粋編集したものです。

松下幸之助が求めた組織は、いわば一個の人間の感情をそのまま共有できるような組織だったのかもしれない。ある部門が成果をあげた喜びを他部門でも喜べる、ある部門の苦しさを他部門が思いやる、そんな有機的な組織。それが幸之助の言う「打てば響く組織」のイメージだ――。究極の組織とも言えるその姿のために、幸之助が求め訴えたこととは何だったのだろうか。
 

経営者の求める姿勢なくして

 よい経営を行うためには、よい組織が必要である。ではよい組織とはどのような組織なのだろうか。パナソニック創業者・松下幸之助は活力のある組織、端的に言えば「打てば響く組織」をつくるべきだと指摘している。

 それは、「お互いの意思が縦横に通いあう風通しのよい組織」のことであり、そうした組織づくりが実現していれば、よい情報も悪い情報も社員からどんどん上がってきて、外部環境がどのように変化しようが敏感に対応できるというわけである。こうした組織の感覚は、一般論として理解できる。しかし、自社の組織をどう評価するかとなると、経営者自身なかなか胸を張って答えられるものではない。むしろ経営者よりも一般社員のほうがシビアな感覚をもっているかもしれない。

 そもそも幸之助自身がこの「打てば響く」「風通しのよい」組織を意識したり、実感したりしたのはいつごろだったのだろう。

 最も古いエピソードは戦前、従業員数が400人ぐらいの町工場に成長していたころのことである。

 店員の一人が得意先回りで、ある問屋へ行ったところ、そこの主人がたいへん立腹していた。それはかなり手きびしい言葉であった。

 「おまえのところの品物を小売屋さんに売ったら、評判が悪いといって返されてきた。せっかく売ったのに返されて、わしは憤慨しているのだ。けしからん。だいたい松下が電器屋をするなどとは生意気だ。電器屋というのはむずかしい技術がいるものなのだ。こんな品物をつくるくらいなら、焼きいも屋でもやっておけ、それが松下には手ごろな仕事だ。帰ったらオヤジにそう言っておけ」

 店員は店に戻ると、そのまま幸之助に報告した。謝罪する必要を感じた幸之助は、その問屋を訪問し、わびの言葉を述べた。すると主人はこう言ったのである。

 「いやおそれいった。腹立ちまぎれに強く言ったのだが、お宅の店員がまさか焼きいも屋になれということをそのままあなたに伝えるとは夢にも思わなかった。失礼した。腹を立てないでくれ」

 あとは笑い話になって、この問屋は以降ほかの問屋にも増してより理解のあるひいき筋になったという。

 店員が幸之助に先方から言われたとおりの言葉を伝えたのは、日ごろ、たとえいやなことでも話してくれよと幸之助から言いきかせられていたからであった。もし店員が、幸之助が不愉快に思うだろうとか悲しむだろうとかと斟酌 <しんしゃく> して表現を変えて報告したりすれば、幸之助にとってほんとうに必要な実際のことが伝わらなくなる。 

 トップに立つ経営者がみずから下意上達かくあるべしという理想を追っていないと、容易に「打てば響く」ようにはならない。すでに幸之助はこの時期から組織の妙というものを認識していたのである。

 

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