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末期ガンの写真家が今、幼い息子に伝えておきたい「孤独の味わい」【幡野広志】

幡野広志(写真家)

2018年10月11日 公開 2024年12月16日 更新

<<末期ガン、余命3年の宣告を受けるも、精力的に発信を続ける写真家の幡野広志氏。

処女作『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』に、写真はあえて1枚しか収録しなかった。写真ではなく、「言葉」で伝えることにこだわった同書では、息子に伝えたいこと、学んでほしいこと、教えておきたいこと、そして、いつか話したいことが綴られる。

幡野氏が息子に学んでほしいこととしてあげたのは、「孤独」と怖れずに向き合うこと。
「孤独」から得られること、インドの写真家から教わったこと。同書の一節から紹介する。>>

 

一人旅とは、自分と一緒に旅をして、自分を試し、知る貴重な時間

20代半ばごろ、中古車を買って、暇さえあれば日本中をぐるぐる旅していた。車中泊ができるようにとバンにしたが、15万円のボロボロの車だ。

写真を撮りたかったし、実家の外に出たかったのだと思う。実家の居心地が悪いわけではないけれど、その年ごろの男が母親と姉と一緒に家にいて「わあ! 楽しい」というのも妙な話だ。

山の中、海に浮かぶ島、日本の貧困地域。駅に行ったら電車が来て、おなかがすけばコンビニに行って食事をするという、「東京の当たり前」が通用しないところばかり、1人で旅した。

情報として頭の中で知っていても、まのあたりにすると見え方が違う。僕はどうやら「知っているだけじゃ足りない」と思う性分らしく、行動して、経験して、理解したいのだ。

山の中みたいに人のいない環境で孤独になると、サルが1匹出てきただけで愛いとおしくなった。さして珍しくないリスでも「ああ、リスだ!」となる。感覚が研とぎ澄まされて、感受性が豊かになる。

そのまま一人旅を続けると、やがて声に出して独り言を言うようになった。
最初は、「あれ、俺はおかしくなったのかな」と思ったけれど、主人公が孤独になる映画でもよく主人公が1人でしゃべっている。

孤独になりすぎると孤独を紛らわせるように会話を始めるが、その相手は自分自身。ずっと自分と一緒なのだから、自分が嫌なやつだと耐えられないだろう。

その意味で一人旅というのは、自分と旅をして自分を知る、貴重な時間だ。自分がどんな人間なのか、試される機会でもある。

 

スタバをとび出して、孤独と向き合おう。最後まで君と一緒にいるのは君だけだから。

ガンになってから、身近に人がたくさんいるのに、孤独を感じるようになった。もうすぐ死ぬというのは、極めつけの孤独に向き合うようなことだ。

そのとてつもない孤独となんとかつきあえているのは一人旅のおかげだし、これまで行動して、経験して、自分の中にいろいろなことを蓄えてきたからだろう。

だから息子にも、「旅はいいよ」と教えてあげたい。1人で旅をし、孤独と向き合うのは、自分を知り、何かを得る経験になるはずだと。

好きな女の子と旅をするのは楽しいと思うが、それは旅というより泊りがけのデートだ。

たとえ海外でも友だちと旅をするなら、それは南極だろうと北極だろうと、八王子のスタバで話しているのとまるで同じだ。それでは旅をする意味がないし、孤独を味わう経験にはならない。

さらに一人旅をしながらずっとスマホを見ていても、孤独と向き合っているとは言えない。僕もつい見てしまうけれど、スマホをポケットにしまっておく旅を息子には薦めたい。

人はみんな孤独を怖がるけれど、孤独は必要なものだ。 いつどんなときも一緒にいて、最後まで一緒にいるのは、自分だけだと思うから。

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「みんなと同じ」写真を撮る旅から、自分だけの経験は得られるのか?

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